38.ボートで結ばれし感情は?
第38話
「あのイルカ、可愛いですね。」
「はっ...はい!そうですね!」
「......」
「......」
(うっ...やっぱり、ちょっと気まずいかな...)
優里ちゃんと一緒にボートに乗れたのはいいものの、中々会話が続かない。優里ちゃんからしてみれば地下家の自分が公爵令嬢の私と二人っきりでボートに乗るなど気まずいのだろう。ましてや私と優里ちゃんは奥田美留世が絡んでいたとはいえ以前は敵対してたも同然の関係だ。逆に私も優里ちゃんの立場だったら何て話しかければいいか分からない。
「優里ちゃんは私の事が嫌いですか?」
「いっ...いえ‼そんな事は...」
「その...正直に話して欲しいんです。」
「...嫌いなんかじゃありません...玲奈様はむしろ愛らしいというか...じゃっ、じゃなくてですね‼玲奈様こそ私なんかと交流して良かったんですか?私は玲奈様の命を狙ったも同然の女なんですよ!」
やっぱり私の予想通りの答えだった。優里ちゃんは奥田美留世が私に毒を盛ろうとした件で自分も間接的ながら加わってしまった事に後ろめたさを感じているみたいだ。
「それでも私は貴女とお友達になりたいです。」
「なっ...」
「確かに貴女は間接的とはいえ、絶対に許されない行動をしました。」
「だったら...」
「ですが私は貴女と初めて会った時から分かってたんですよ。貴女が本当はとても優しい子なんだって。」
「えっ⁉」
時は遡って奥田美留世とその取り巻き達が姫由良ちゃんと蛇茨ちゃんに絡んでいた時、止めに入ろうとした私は興味深いものを見た。美留世の取り巻き達の中で一人だけ申し訳なさそうな顔をした少女がいたのだ。その少女は私が奥田美留世を追い払った後には目を輝かせて頭を下げてきた。他の取り巻き達は私を恐れて頭を下げたのだろうがその少女は違った。まるで、
〃私の代わりに皆を止めてくれてありがとうございます〃
と心の中で言っているみたいだった。
その少女は本当はいじめなどはしたくなかったのだろう。奥田美留世に逆らえないから...仲間外れにされたくないから...周りに合わせて姫由良ちゃんと蛇茨ちゃんへのいじめに加わるしかなかったのだ。
「これで私が貴女を協力者に選んだ理由も分かったかしら?」
「気づいていたのですね...玲奈様。」
私の言葉を聞いた優里ちゃんはしばらく黙りこんだ後、やがて何か決心したかのように話し始めた。
「前にも話しましたが河合家は奥田家に莫大な借金がありました。なので河合家は奥田家には絶対に逆らえず、両親からも何としてでも奥田美留世に取り入るように言われる日々で心が痛かったです。奥田美留世からも取り巻きというより奴隷のように扱われ学園を卒業するまでこの生活は終わらないものと思っていました。...ですがある日、救世主が現れました。それが玲奈様です。」
流石に大げさだよと思う私を尻目に優里ちゃんは話を続ける。
「玲奈様は私が協力する事とひきかえに河合家の借金を全額肩代わりして返済してくれました。そしてさらには岩倉家の門流に加えていただき、奥田美留世とも他の取り巻きの子達とも袂をわかつ事ができました。両親も本当に喜んでましたよ。これで奥田家に指図されずに済むんだと。私はいつしか、玲奈様に恩返しがしたい...もっと距離を縮めたいと思うようになりました。」
「優里ちゃん...」
話が続くうちにいつのまにか優里ちゃんの目には今にもこぼれそうなくらい涙がたまっていた。
「だっ...だから‼無礼を承知で私からもお願いです!私の...おっ...お友達になって下さい‼」
そう言って優里ちゃんは私に向かって頭を下げてきた。
「もちろんです。こちらこそこれからもよろしくお願いしますね!」
「玲奈様...‼」
私が答えを返すと優里ちゃんは感極まった表情を浮かべて私に抱きついてきた。
「玲奈さまあぁぁぁ~ん‼うわあぁぁぁ~ん‼ありがとうございます!」
「ちょっと‼優里ちゃん⁉ここはボートの上ですよ⁉そんなに体重をかけたら...あっ...」
私が注意するが時すでに遅し。ボートがひっくり返ってしまい、私と優里ちゃんはプールに投げ出されてびしょ濡れになってしまったのだった。
・・・・・
「あの...玲奈様...さっきはすみませんでした。」
「いいえ、優里ちゃんが気にする事じゃないですよ。」
あの後、びしょ濡れになった私達を見て驚いた係員の人に怪我がないかめっちゃ心配された。まぁ、貴族令嬢達に怪我を負わせた水族館なんて汚名がつくのは御免だからそりゃそうだね。下手すれば閉館に追い込まれるかもしれないし...幸い私達はこういう時に備えて着替えも用意していたので空いた部屋を借りてそこで着替えさせてもらう事になった。
(とんだ災難だったな...)
だが、その代わりに...
「あっ‼もうすぐ集合時間ですね!そろそろ集合場所に向かいましょうか?」
「はい!玲奈様‼」
私はまた新しいお友達をゲットしたのだった。
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