30.真相は...
第30話
運動会での事件から3ヶ月が過ぎた。私の意向もあってか事件の存在は公にはされていない。もし関わったのが上位貴族だった場合、警察にいったところで何らかの形で揉み消されるのは明白だ。
だから今回の件はみんなを巻き込むことなく自力で解決するつもりだった。
「玲奈お嬢様!あの令嬢が来てるのですが...何やら凄く慌てているようです。どうしますか?」
実を言うと、この3ヶ月という時間で実行犯自体は特定済みなのだ。姫香がいっていたあの令嬢とは実行犯特定に貢献してくれた子の事だ。
「分かりました。通しなさい。」
「はい。」
あとは実行犯から黒幕の情報を聞くだけだと言うのに何の用事だろう?
私が不思議に思っている中、その令嬢は到着した。
「あのっ!岩倉様!」
「どうしたのですか、河合優里ちゃん?」
もの凄く慌てた様子で私の部屋に入ってきたのは河合優里という名の令嬢だ。河合家は醍醐家侍の家で優里ちゃんは同じ派閥のとある令嬢の取り巻きをしていた。それが誰なのかは賢い方ならこの時点で察しただろう。
「美留世様...いいえ、奥田美留世の件で...」
(......)
そう、私の水筒の水に異物を混入をしたのは奥田美留世だったのだ。私は岩倉家の手の者と協力して学園内に設置されていた防犯カメラの映像や観客の目撃情報から極秘に犯人探しを進めていた。そんな中で捜査線上に浮かび上がったのが奥田美留世だった。
あとは確たる証拠を掴めばという段階だったが手間が省けた。奥田美留世が事件に関与したと証言してくれる者が現れたのだ。それがこの優里ちゃんという女の子だ。
どうやら優里ちゃんが美留世に従っていたのは親に言われていたからであり、実際には彼女に振り回されてばかりで不満を持っていたらしい。そんな事もあってか優里ちゃんは美留世を裏切る事に抵抗はなかった。
一方、私は実行犯は美留世で間違いないが他に黒幕がいる気がして仕方がなかった。なぜなら美留世が私に毒を盛るメリットが薄く、デメリットの方が大きいからだ。姫由良ちゃん、蛇茨ちゃんの一件を理由としてもやはりメリットは薄い。それならむしろリスクが低い姫由良ちゃんや蛇茨ちゃんに毒を盛る方が簡単だからだ。
こうした違和感を感じた私は夏休みに美留世を岩倉家の屋敷に呼んで問い詰めたところ、全くもってその通りだった。奥田家はある人物に弱みを握られているらしく、その人物に逆らえない。私の水筒に毒を盛ったのもその人物からの命令だったそうだ。
私はその人物の正体を聞き出そうとしたが美留世曰く、その人物は誰にも素顔を見せた事がないらしく美留世の両親ですら知らないそうだ。
そして美留世は私に泣きついてきた。今回の件が失敗した事で自分達は口封じのために消されるかもしれない、自分はともかく、親や兄妹だけでも助けてほしいと。
私は悩んだ末に奥田一家を岩倉家で保護する事にした。正直、私にあんな事をした美留世は許せない。だが、美留世も...いや、奥田家もある意味被害者なのだから。
そして夏休みが終わり、両親に頼み込んで奥田一家が住める屋敷も手配し近日にもこちらに移ってもらおうとした矢先の事だ。
「言ってください。奥田美留世さんがどうかしたのですか?」
「奥田美留世とその家族が行方をくらましました‼」
「えっ?」
(なっ...失踪⁉遅かったか...)
恐らく私の動きに気づいた黒幕によって奥田一家は消されたのだろう。相手の動きが早すぎる。
「姫香‼直ちに家の者総動員で奥田一家を捜索して!」
「はっ...はい‼」
今ならまだ間に合うかもしれない...なんていう都合がいい願いは叶う事はなかった。




