313.義姉と姉
第313話
楽しい京都旅行の時間はあっという間だった。お泊まり会の翌日、具美達と別れの挨拶を済ませた私達はそれから2日ほどは京都のあちこちを巡って観光を楽しんだ。もちろん、陽菜が行きたがっていた金閣寺にも行っている。
ちなみに余談だが、具美は私達との別れを惜しんでいた様子で翌日の私達の観光にも同行したいと両親に願い出ていたようだけど...それは流石に安親さんの許可が降りなかったらしく、泣く泣くここでお別れとなってしまった。
(まぁ、いくらゴールデンウィークとはいっても分家の皆さんにもちゃんと予定とかはあるから流石に遊んでばかりとかは無理だし、具美には申し訳ないけど仕方がないよね...)
なお、お泊まり会での夜更かしのせいで少しばかり眠気があったがそれを差し引いても観光を楽しめたと思っている。
・・・・・
そして、今日はゴールデンウィーク5日目。
「やっほー!玲奈お姉ちゃん~!暇だからこっちに来ちゃったよ~!」
「あの...陽菜?別に私の部屋に来ても退屈しのぎにはなりませんよ?新しいゲームを買ったわけでもありませんし...」
「いいの!いいの!玲奈お姉ちゃんとお喋りできるだけでも私は楽しいんだからね!」
この日は休日の割に私も陽菜も習い事や遊びに行く予定がない珍しい日だ。だからやる事がなくて暇になってしまうのも分かるし、退屈しのぎに陽菜が私の部屋に遊びに来るのだって別に不思議ではない事だ。
「そういえば、フィクサーは相手をしてくれないのですか?」
「う~ん、それがね~?ついさっき、フィクサーは空の散歩に行っちゃったの...一応、『ユウグレドキニハモドル!』って言ってたから当分は帰ってこないんだよね...」
「そうでしたか...」
普通の鳥ならともかく、フィクサーは色々と変わっていて未だに謎が多い鳥だ。口では散歩と言いつつも実際にはどうしてるのか気になるものだ...
「なら、仕方ありませんね。私個人としては別に退屈ではありませんが義姉として陽菜に退屈させるのも申し訳ないですし...」
「やったー!やっぱり、前のお姉ちゃんなんかよりも玲奈お姉ちゃんが私の姉で良かったよ!」
「では、何をして遊びたいか陽菜が決めてください。」
「私が決めていいの?それじゃあ、まずは...」
・・・・・
「...陽菜、ちょっと良いですか?」
「玲奈お姉ちゃん、どうしたの~?」
陽菜と二人で遊び始めてしばらく経った頃、ふと私は陽菜に声をかけた。いや、陽菜と遊ぶ事になった時点でどこかのタイミングでそれとなく例の件を聞こうと思っていたのかもしれない。
「その...単刀直入に聞きますが...陽菜は私と話さなければならない事がありますよね?」
「えっ?私が玲奈お姉ちゃんと...?いや、全く心当たりなんてないんだけどな~。」
「.........」
私に問いかけられた時の陽菜の表情はまるで本当に心当たりがないかのような素振りでおまけに声にも緊張しているような部分は見られず、本当にただ純粋に困惑しているかのような雰囲気だ。
(うん、流石だね...もしかしたら、一般人やどこにでもいそうなその辺の貴族達はおろか...美冬ちゃんや莱們ちゃんですらも今の陽菜の演技を見破るのは難しかったかもしれないね...)
何ならこの私も萌留ちゃんから事前に話を聞いていなければ完全に騙されていた可能性も否定はできない。それぐらい、陽菜が岩倉家の教育で身につけた処世術による演技は上手だったのだ。
「あなたが萌留ちゃんにした事についてですよ?あの時は気が動転していたので触れる事が出来ませんでしたが...」
「まさか、旅行の時に私に何か言おうとしてたのも...」
「えぇ、この件についてです。ですが、その時も楽しい京都旅行に水を差すまいと触れるのは諦めましたからね...それと萌留ちゃんに筋違いな恨みを向けるのはやめてくださいね。」
こうでも言っておかないと陽菜と萌留ちゃんの絆にヒビが入りかねないからね...陽菜に強い口調を使うのは心苦しいけど向こうも私を騙そうとしていたんだからお互い様だと思ってほしい...
「どうしてそんな事をしたのですか?別に私の事を『お姉様』と呼ぶくらい、別に良いではありませんか?」
「良くないよ!玲奈お姉ちゃんは私だけのお姉ちゃんなんだもん!それなのに萌留ちゃんが気安くお姉ちゃんって呼んでるの...内心ではずっと許せなかったの!」
「莱們ちゃんや敦鳥ちゃんは良くて萌留ちゃんはダメなのですか?」
「莱們ちゃんは...ほら、岩倉家と三条家は親しい間柄で玲奈お姉ちゃんと共に私を今の立場にしてくれた大恩人でしょ?そんな莱們ちゃんなら私の事を絶対に裏切らないって分かるもん...長寿院ちゃんは単純に忠犬みたいな子だから尊敬の意味で呼んでいるって分かるから良いの...でも萌留ちゃんは明らかに他人なのに玲奈お姉ちゃんに尊敬以上の感情を向けているもん!そんなの許せないよ!」
「.........」
嫉妬がここまで人を狂わせてしまうのかと私は今さらながら思った。とにかく、手遅れになる前に陽菜とはちゃんと話をしないと...
「萌留ちゃんだって陽菜の大切な友達ではありませんか。」
「そうかもしれないけど...!私は玲奈お姉ちゃんのたった一人の妹!その立場を誰かに取られるのは嫌なの!」
「取られるもなにも...私が陽菜を捨てるわけないじゃないですか!」
「私だって最初はそう信じてた!でも島津憩美と会ってからますます不安になったの...玲奈お姉ちゃんの周りにはどんどん新しい子が増えてきたからいつか私は用無しにされちゃうんじゃって...そんなのもう嫌だよ...地獄同然だった前の生活に戻りたくない...」
「陽菜...」
やはりというか、陽菜の中ではかつてのトラウマはまだ完全に消えてはいなかったらしい。そう考えると不安を抱えるのも仕方ないか...
「とはいえ、ビンタをしたのは良くありません。暴力で解決するのはダメですからね...」
「うん、それに関しては私にも非があったから後で謝ったよ...でもね?今後の萌留ちゃんの行動次第で私はあの子の事を友達とは思えなくなっちゃうかも...それだけは覚えておいてね?それじゃあ、もう戻るから...」
「ちょっ...陽菜!まだ話は...」
結局、姉妹の話し合いは後味の不味い結末に終わったのだった...




