312.具美の感謝
第312話
「...みたいな感じで無事に陽菜ちゃんと和解できたというわけですよ...さて、ここまでの話の内容は聡明な玲奈様なら当然理解できましたわよね?」
「なるほど、そんな事があったのですね...だとすればあの後、あなたが私よりも先に謝ってきたのにも納得です。」
「当たり前ですわ...自分に非があると判断したら潔く認めるのが私の良いところなのですから...」
「...へぇ、潔く...ねぇ?」
具美が本当に潔いなら私を小馬鹿にするその態度もどうにかしてほしいものだと内心で思っていたからかな?うっかり、そんな言葉が出てしまった。幸いにも小声だったので具美には聞こえていなかったようだが...
「そして、仲良くなるにつれて陽菜ちゃんは私をもう一人の姉のような存在と思ってくれるようになって私の事を『具美お姉ちゃん』と呼んでくれるようになったのですわ...で、お返しに私は『陽菜ちゃん』と呼ぶようになったのですわ...」
「えぇ、それは私も知ってますよ...ん?」
「おやおや?玲奈様、どうしましたの?何か問題でも?」
ここまでの話を振り替えってみると、ふと私の頭の中でとある疑問が生まれていた。まぁ、それ自体は別に大したものじゃないんだけど...
「いいえ、別に問題はありません...ですが、一つだけ質問をさせてもらってもよろしいでしょうか?」
「質問?構いませんわよ?」
「あなたはあの一件以降、私の事を『玲奈様』と呼ぶようになって『玲奈お姉様』とは呼んでくれなくなりましたが...やはり、内心ではまだ怒っているのですか?」
「.........」
質問の意図は特にない。単純に気になっただけだ。別にちょっとだけ寂しかったとかそういうわけではないはず...しかし、私がそう質問すると途端に具美が気まずそうに俯いたではないか...
(そうだよね...具美は強がって口では立派な事を言っているけどやっぱり...)
具美の内心を察した私が口を開こうとした時だ。一足先に具美が話し始めた。
「いや、違いますの...私はですね...」
否定の言葉を口にする具美だがその口調はどこかたどたどしい。果たして本当に本心なのやら...
「その...私はですね?あの一件で分かったのです。玲奈様の妹の座は陽菜ちゃんこそが相応しいのだと...それゆえにその座を陽菜ちゃんに完全にお譲りして私の大人な部分を見せるために『玲奈様』と呼ぶようになったのですわ。」
「じゃあ、内心では私の事を許してはいないというわけでは...」
「ないに決まってますわ。むしろ、玲奈様にはお礼を言いたいくらいなんですもの!」
「お礼...ですか?」
いや、お礼と言われてもねぇ?私、具美に感謝されるような事をした覚えがないんだけど...
「私はそれまでは完全に井の中の蛙でしたわ...ですが、玲奈様や陽菜ちゃんと関わった事で今まで知り得なかった己の未熟さを知り、同時に心身共に成長する事ができましたの...もしも、玲奈様や陽菜ちゃんがいじわるな性格だったらこんな思いは芽生えなかったかもしれませんが...」
「それだったら、お礼は陽菜に言ってあげてください。私は別に...」
「いえいえ、前から思っていましたが玲奈様は自分の事を過小評価し過ぎですわ。せっかく、この私がお礼を言っているのですよ?素直に受け取って欲しいものですわ。」
「そうですかね...まぁ、分かりました。具美様のお礼の気持ちはありがたく受け取っておきますね。」
「えぇ、それで良いのですわ!」
私がお礼の気持ちを受け取ると言うと再び具美の機嫌が良くなった。
「さて、話は終わりましたか?私はそろそろ眠らないと明日の予定に影響が...」
「そうですわね...私の長話に付き合わせてすみませんですわ。」
こうして、私は今度こそ眠りにつくのだった...
(玲奈お姉ちゃんに具美お姉ちゃん、無意識に声が大きくなっているのに気づかなかったのかな...)
しかし、実はいつの間にか目を覚ましていた陽菜に話を聞かれていた事を玲奈も具美も気づいていなかった...




