304.分家のお嬢様はドッキーネスボス?
第304話
岩倉具美...岩倉家の分家である岩倉子爵家の娘でミラピュアの玲奈お嬢様と同い年、彼女にそっくりで高飛車な言動や振る舞いといった悪役令嬢要素が多い。それが私が抱いていた彼女の印象だ。
(大功を成し遂げたご先祖様と名前が似ているからって子爵令嬢に過ぎないのにあんなに威張っちゃってさぁ...別にあなた自身が凄いってわけではないのが分からないのかな?)
これだけならまだ良いのだが、実は彼女はミラピュアにおいて兼光ルートでのドッキーネスとして君臨しているのが特徴だ。
ミラピュアでの具美は自分こそが二条兼光に相応しいと取り巻き達と共にヒロイン達と敵対する...という役柄だ。その名前や言動や振る舞い、いじめのシーンの多さもあってプレイしていたファンの中には彼女をメインの悪役に違いないと見なす者が多かったが、実際には玲奈お嬢様に焚き付けられていただけの道具に近い存在に過ぎなかった事が後に玲奈お嬢様の口から明かされている。もっとも、ティランティーノボスとは違って攻略ブックにはしっかりと記載されている事、メインの悪役にしては子爵令嬢とやけに爵位が低かった事、退場シーンがお粗末だったので騙された人は少なかったらしいが...
このようにミラピュアでの具美は確かに性悪な部分ばかりが目立っていた。しかし、同時に玲奈お嬢様とは違って取り巻きの事は本当に友達と思っていた事やかつて外部貴族であった事を心ない輩に馬鹿にされた経験から内心ではコンプレックスを抱いていた事など所々で彼女のキャラの掘り下げも進められており、その境遇から彼女に対しては多少は同情するファンもいたんだとか。
ちなみに私は具美はヒロインにやった事自体はえげつないので同情こそはできないが、少なくとも玲奈お嬢様よりかは心優しい人間ではあったというのが実際にプレイしていた時の感想だった。
...で、この世界の具美はというと、
「岩倉玲奈様~!この具美は今日という日を首を長くして待っていたのですよ~!自称、本家を名乗るお嬢様と会えるこの日を~!その見事だった品位は今も保てているのですか~?」
「はいはい、前にも言いましたが...あなただって仮にも岩倉一族なら少しは品のある教養を身につけてはいかがですかね?人の心配は余計なお世話です。」
「くっ...生意気ですわ~!まぁ、それは否定はできませんけど...」
自らのプライドもあってなのか、私と会う度にネチネチとちょっとした嫌味を言っているのはムカつくんだけど...それを除けば意外と悪いところはない令嬢だった。ミラピュアでの具美と玲奈お嬢様は利用する者と道具にされる者の関係でしかなかった事を考えるとこれは良い変化なのだろうか?
(この子との初対面時に既に私が前世での記憶を思い出せていて本当に良かったよ...)
もしも、前世での記憶を思い出せていていない状況で具美と出会っていたら今以上に関係が悪化してミラピュア本編と大差ない関係になっていただろうからね...
それを何としてでも防ごうと初対面時にこちらに突っかかってきた具美に対して私が大人な対応を見せつけた結果、具美の方にも何かしらの心境の変化があったようでそれ以降は私や自分よりも格下の相手に対して露骨な暴言や見下した態度はとらなくなった。
そして、今のような関係性に至るという形だ。
「さて、聞いてはいるでしょうけど...本日は私の屋敷で本家のお泊まりさせてあげますの。感謝してくださいな~!」
「えぇ、わざわざ自分達の屋敷に泊まる事を私に提案していただきありがとうございました。屋敷に着いたら陽菜も交えて楽しみましょう。」
「いやいや!べっ...別に!私が本家の皆さんと楽しみたくて屋敷に呼んだのではありませんわ!いいですか!?お父様が提案したのを私が仕方なく了承したのです!」
まぁ、うちの父からこの件を打診してきたのは他ならぬ具美だとはっきり伝えられているので嘘をつかれてもバレバレなんだけどね?
(別に素直に認めてくれたっていいのに...分家の屋敷でお泊まりできるなんて陽菜はもちろん、私だって楽しみにしている部分が少しはあるんだし...)
これも具美の良く分からないプライドのせいなのだろうか?
「あっ、具美お姉ちゃん!久しぶり~!」
「あらあら~!陽菜ちゃん、久しぶりなのですわ~!」
「えへへっ!」
そんな事を考えている内に陽菜が私と具美が会話しているのを目撃したのか、こちらに駆け寄って来て具美と挨拶を交わしていた。
そういえば陽菜が具美と会うのはこれで何回目だったっけ...私達は最低でも年に1回は京都に来て外部貴族の皆さんと交流するのが慣例だ。それは今年のようにゴールデンウィークの時期の時もあれば夏休みや冬休みのような長期休みの時期の時もある。その度に陽菜と具美はお互いに交流して親睦を深めている。
「...普段から陽菜と接する感じで私にも接してくれればいいのに...」
思わず私の口からそんな独り言が飛び出してしまったのはほんの気の迷いだろうか?




