303.外部貴族と岩倉家の分家
第303話
あの後、母がトイレから戻ってきたので父は今後の旅行の予定について私達に話し始めた。
「結論から言うと...まずは外部貴族の皆さんに挨拶をして次に分家の屋敷にお邪魔して今夜はそこでお泊まりという形になるかな?」
「お泊まりですか?挨拶はともかく、今年はホテルじゃなくてわざわざ分家の方の屋敷に泊まるのですか?」
「あぁ、毎回のように高級ホテルばかりだと飽きてしまうだろう?何より向こうからわざわざ打診してくれたからね。断るのも申し訳ない。」
「そうですか...」
まぁ、私からすればできればホテルの方が良いんだけどね...
もちろん、それはホテルの方が料理が美味しいだとか、防犯設備が完璧だからという理由で言っているのではない。
(はぁ、あの子と会わないといけないのか...)
私が言うあの子とは岩倉家の分家のお嬢様の事だ。実は私はあの分家のお嬢様の事を完全に嫌いとまではいかないが、ちょっとだけ苦手に思っているのだ。
それは何故かって?説明するのも面倒なくらいなんだけど...
「あと数分もすれば分家の運転手が運転する車がここに来るだろう。それに乗ってまずは外部貴族の皆さんに挨拶をしにいこう。あちらが言うにはちょうどいいタイミングだそうだからね。」
「えぇ、そうね。」
「はい、分かりました。」
「了解~!」
私達はこうやって休み期間に京都に来る度に分家の方からは車を貸してもらっている。わざわざ電車やバスを使わなくてもいいのは利点だ。
私は分家について思うところは色々あるがそれに関しては本当に感謝しているのだ...
・・・・・
「皆様、ごきげんよう。」
「あっ、岩倉様!お元気そうで本当に何よりです!本日は何卒お楽しみください!」
とあるパーティー会場にて私達一家は外部貴族の皆さんと交流していた。
ちなみに普段は岩倉家の派閥の家か、私達が個人的に親しい家くらいにしか挨拶に行かないのがこの日はたまたまパーティーが開かれていたらしく、そこに招待される形で例年よりも多くの外部貴族の皆さんと交流を深める事になったのだ。
(...まさか、こんなにたくさんの外部貴族の皆さんと交流する事になるとは思ってなかったよ...)
ちなみに外部貴族について分かりやすく説明しておくとこんな感じだ。
前にも言ったようにかつての日本の首都は京都であり、貴族達はそこで暮らしながら朝廷に出仕しており、それが長く続いていた。しかし、今から160年ほど前にそれまで貴族達に代わって日本を牛耳っていた政権が打倒された事で状況が一変した。
その後に成立した新政権の意向によって陛下が京都から東京に移る事になり、それに従う形で多くの貴族達が京都から離れ、新たに東京に移住する事になった。
ところがだ。貴族達の中には長年慣れ親しんだ京都を離れる事を強い抵抗を示して拒絶し、そのまま京都に残るという選択をした者もおり、その者達こそが外部貴族と呼ばれるようになったのだ。ちなみにこの時に東京に移住した貴族達は内部貴族と呼ばれており、岩倉家もその中の内の一つだ。
「岩倉玲奈様!素敵です!」
「そのドレスも似合っていますよ!」
「ふふっ、ありがとうございます。五条美空さんに粟田口麗瑠さん、お二人のドレスもお似合いだと思いますよ。」
今、私と会話している同い年の少女達...五条美空ちゃんと粟田口麗瑠ちゃんの二人もそれぞれが五条子爵家と粟田口男爵家の娘...すなわち外部貴族の家の令嬢達だ。
一部の外部貴族の中には内部貴族の事を【古くからの都を捨てた裏切り者】と見なす者もおり、それに対抗する形で内部貴族の中にも外部貴族の事を【いつまでも昔の事に執着している時代遅れの輩】と見なす者もいるか美空ちゃんや麗瑠ちゃんはそんな事は思っていなかったので私とも友好的に交流する事ができた。中には私達の方を見てヒソヒソ話している輩もいるがそれはごく少数だ。
「私、中学になったら絶対に明成学園に行きます!岩倉様と同じ場所で学びたいです!」
「私もです!」
「お二人にそう言ってもらえると光栄です。」
外部貴族達は京都にある貴族御用達の一貫校である榊川学園に通っており、そこで12年の学園生活を送る者が多いが中には中等部や高等部に進級するあたりで上京して外部生として明成学園に通う者もいる。その場合、別荘でも持っていない限りは寮暮らしになったりと色々大変なのだが...
なんて事を思っていた時だった。
「おやおや~?岩倉玲奈様ではありませんか~?1年ぶりですわね~!」
「げっ...お久しぶりですね、岩倉具美様。」
「あれれ~?今、嫌がってませんでした~?」
「いえいえ、それはあなたの気のせいでは?」
岩倉具美...まぁ、ここで分家のお嬢様と出くわす事は大体は想定していたんだけどね...




