301.陽菜と萌留の絆
第301話
そんな感じでスクリーンの入口付近で私と萌留ちゃんの会話が続いて数分が過ぎた。
(さて、肝心の映画の方は今ごろどうなっているかな...ひょっとするともう観たかった名シーンは全部終わっちゃってたりしてね...)
大人気アニメ映画の途中で抜けてきてしまった事に私はちょっとした名残惜しさを感じていたが、後悔自体はしていない。
幸いにもこの映画は公開初日からそれほど月日は経っていない。なので、また後日改めて観に行けばいい話だ。万が一、映画を観に行けなかったとしても地上波で流れるのをじっくり待っておくという手もあるのだ。
(万が一、そうなったらお父様に頼んで早く放送するようにとテレビ局のお偉い様に圧力をかけておき...おっと、危ない!ミラピュアの玲奈お嬢様じゃあるまいし...それはやってはいけないね...)
まぁ、思わずこんな邪悪な考えが浮かんでくる位に私がこの映画を楽しみにしていたのは事実だが...
「何かごめんね...玲奈先輩にとってはせっかくの楽しい映画だったのにある意味私のせいで台無しにしちゃって...」
「いえいえ、別にもうそんな事は気にしてませんよ。こうして、萌ちゃんに寄り添って話を聞いてあげる事ができたのですから。」
「そうなんだ...私の話を聞いてくれて本当にありがとう!玲奈お姉ちゃ...あっ!」
萌留ちゃんがうっかり、私の事を再び『玲奈お姉ちゃん』呼んでくれた事に私は嬉しさを感じた。
「...無理に呼び方を変える必要はありませんよ?萌ちゃんがまた私の事を『玲奈お姉ちゃん』と呼びたいのであればそう呼んでくれても構いません。」
「えっ?そんな事は...うん、分かったよ。でも陽菜ちゃんに配慮したいって気持ちもあるから『玲奈お姉ちゃん』って呼ぶのは二人っきりの時だけ...とかでもいいかな?」
「えぇ、もちろんです。それでも構いませんよ。」
自分の事よりも陽菜の事を最優先に考えてそれなりの答えを出してくれる萌留ちゃんは本当に優しい子だ。
「えへへっ!予期せぬ形で私との間に秘密ができちゃったね!玲奈お姉ちゃん!」
「ふふっ、そうですね。私と萌ちゃんだけの秘密ですね。」
そう嬉しそうに笑っている萌留ちゃんを見て私の方も自然と笑顔が出てしまう。本当にこの子が入学早々に陽菜のお友達になってくれて良かったよ...
...ん?ちょっと待てよ?そういえば...
「そういえば、ずっと知りたかったのですが...萌ちゃんが陽菜と仲良くなったきっかけは何だったのですか?」
「えっ?あっ、それは...その...ね?至って単純なきっかけなんだけど聞いてみたい?」
「はい、聞かせてもらえるのであれば是非。」
私がそう質問した途端に萌留ちゃんが急に気まずそうな表情を浮かべてしまった。どうやら、あんまり良いと言えるきっかけではなかったのかな?
「あのね...入学初日の頃の私って友達が出来るか緊張してたんだよ。とりあえず、まずは自分と同じ地下家の子と仲良くなろうと思ってたまたま近くにいた自分と似たような雰囲気の子に声をかけにいったら、その子がまさかまさかの陽菜ちゃんだったの...」
「なるほど...それはちょっと気まずいですよね...」
「本当だよ!よりにもよって公爵令嬢に気安く口を聞いちゃったんだもん...幸いにも陽菜ちゃんが優しかったから特にお咎めはなかったし、逆に『自分に初めて話しかけてくれた子』みたいな感じでお友達認定されちゃったというわけ...おまけに陽菜ちゃんの紹介でこれまた公爵家の莱們ちゃんや輝心くんとも入学早々に友達になっちゃって...そんなわけで最初は本当に私なんかが陽菜ちゃんのお友達に相応しいのか不安だったの。」
おや、これは意外だね?だって私との初対面の時の萌留ちゃんは...
「玲奈お姉ちゃんと初めて会った時だって、とっても緊張してたんだよ...だけどね?私という友達ができた事を喜んで玲奈お姉ちゃんに陽菜ちゃんを見て空気を壊さないように必死で笑顔で明るく接しようと思ったんだから...」
私が何を言いたいのかを見透かしたのか...はたまた偶然なのか...萌留ちゃんが自分から初対面時の事を語り始めた。
「つまりは演技だったと...」
「あっ!演技といっても入学してすぐの時だけだからね!それからは時間が経つに連れて次第に本当に陽菜ちゃんや莱們ちゃん...そして、滓閔ちゃんや美冬ちゃんとも本当に仲良くなりたい!友達でいたい!って思えるようになれたの!」
「別に怒ってなどいませんよ?普通なら誰だって萌留ちゃんのように不安に思うのは当たり前ですからね。」
「玲奈お姉ちゃん...」
...と、一見するとここまで良い話にも聞こえてくるのだが、私は会話の中で萌留ちゃんが重大と言える事を言っていたのを聞き逃していない。
(自分と似たような雰囲気の子...ねぇ...)
そう...萌留ちゃんは陽菜の秘密は知らされていないはず。それなのにこんな早い段階から陽菜にそんな雰囲気を感じていたというのは萌留ちゃんの直感が凄いのか...はたまた当時の陽菜からはまだ地下家らしさが抜け切っていなかったのか...私としては後者だったら良いんだけど...
「あっ!こんなところにいたんですね!」
「玲奈お姉ちゃんに萌留ちゃん!どこ行ってたの~?」
「お二人が不在の間に映画は終わってしまいましたよ...」
「滓閔は大いに心配してました~!」
そんな事を考えている間にどうやら、萌留ちゃんと会話している間に映画の上映時間が終わってしまったらしく、残していた4年生組や他の観客達が続々とスクリーンから出てきていた。
「すみません、萌留ちゃんとたまたま同じタイミングでお手洗いに行ってまして...その後は二人で話し込んでいたんです。」
「そうだよ~!偶然にも玲奈先輩と被っちゃってさぁ~!」
「ふ~ん、同じタイミングでねぇ...」
「しかも、その後に話し込む...ですか。」
私の苦しい言い訳は陽菜や莱們ちゃんからは怪しまれていた。というか、勘の良い人なら誰でも疑うだろう。
「そうでしたか~!だったら仕方ナッシングですね~!では、次へ向かいましょう!」
「あっ、こら!滓閔走らないで!」
「滓閔ちゃん!待ってよ~!」
「待ってくださ~い!」
もちろん、変に納得してしまう例外もいるようでそれが滓閔だ。この時ばかりは滓閔の変人属性に感謝しないとね...
そんなわけで陽菜達は走っていった滓閔を追いかけていったため、再び私と萌留ちゃんは二人っきりとなる。
「やれやれ、皆を追わないと...萌ちゃん、行きましょう。」
「うん...あっ!言い忘れてたけど...」
急に萌留ちゃんが私の耳元で囁き始めた。
『あのね...個人的な直感だけど玲奈お姉ちゃんは陽菜ちゃんについて私に何か隠し事をしてる気がするの...もし、私にも打ち明けてくれたら嬉しいかななんて...』
「.........」
「さぁ!玲奈お姉ちゃん!皆を追わないとね!」
この時、私は萌留ちゃんに陽菜の出生の秘密を打ち明けるべきか本気で悩んだが、結局は打ち明ける事はできなかった。
しばらくは『自称悪者の俺と悪のお助けマンの後輩ちゃん』の執筆を進めるので次回は遅れるかもです。もし、よければそっちの小説の方もよろしくお願いします!




