299.映画館にて
第299話
「さて、莱們ちゃんの見事な味覚問題は無事に解決したので次へレッツゴー!」
「次はラスト...萌留ちゃんの番ですね。」
「よし、私の番だね!といってもすぐそこだから!」
あの後、皆で(悪気なく煽っていた滓閔を止めながら)何とか莱們ちゃんを慰める事に成功した私達は気を取り直してクラウンモール巡りを再開していた。
「はい!到着だよ!」
「本当にすぐそこでしたね...」
萌留ちゃんに案内されたのはクラウンモール内にある映画館、『クラウンシネマ』だった。
「ふ~ん、映画館ね。何を観るの?」
「そうだよね~?気になる~!」
「決まってるじゃん!アレだよ?ほらっ!今、話題になっているあの映画作品を...」
私達はチケットやポップコーンと飲み物などを購入し終えるとお目当ての映画が上映されるスクリーンへと向かったのだった...
・・・・・
「ううっ...!」
「ぐすっ...」
「ほんとに感動です...」
「でも、ここからが本番...」
周囲の座席からはさっきから観客達のこんな声や嗚咽が聞こえていた。その中にはグループの皆の声も混じっている。
(確かに泣ける映画ですね...)
そんな私も油断したら泣いてしまいそうだ。
萌留ちゃんが選んだのは【ある日、化け物によって大切な家族を殺された主人公の男の子がその化け物の親玉を倒す】というシリアスな内容の漫画をアニメ化した映画作品でちょうど主人公がNo.3の敵を倒す部分が映画化されていた。
このNo.3の敵は登場当初は主人公サイドの人気キャラを殺した事でヘイトを集めていたがその過去の回想があまりにも悲惨な事で話題となり、一転して人気キャラとなった経緯があるという特徴の持ち主だ。それゆえに多くのファンにとって主人公とNo.3の敵の戦いはアニメ化が強く望まれていた名シーンなのだ。私も是非ともこのシーンをアニメで観たいと願っていた。
(私もあのシーンを漫画で読んだ時は本当に感動したよ...それが遂に映画で見れるなんて!)
そして、いよいよ映画が終盤...誰もがお目当ての回想シーンに突入...しかけた時だった。
(...ん?萌留ちゃん?)
萌留ちゃんが急に座席を立ったかと思うとスクリーンの出口の方へと歩き出したではないか。
(これからがいいところなのに...もしかしてドリンクの飲み過ぎでお手洗いかな?)
...と、思っていたのだがスクリーンの出口が目前に迫った時、萌留ちゃんは意味深に私が座る座席の方を向くと手招きをしていた。スクリーンが暗いので表情こそ分からなかったが、それはまるで【私だけに一緒に来てほしい】と言いたげな様子だった。そして、そのまま萌留ちゃんはスクリーンから出ていった。
(萌留ちゃんのさっきの手招きは私だけに来いって意味だよね?)
ならばその意図を組んであげるのが優しさというものだ。幸いにも陽菜をはじめとして他のグループメンバー達はさっきから映画に気を取られていて萌留ちゃんの一連の動きに気づいていない様子...つまり、絶好の機会だった。
(そ~っと抜け出してっと...)
こうして、私は萌留ちゃんの後を追ってこっそりスクリーンから退出したのだった。
・・・・・
(...ん?あれって、岩倉先輩と萌ちゃん先輩だよね?こんな良いタイミングで退出なんて...一応、あの人に報告しておこっかな...)
しかし、偶然にも一連の行動を見ていた知り合いがいた事をこの時の私は知らなかった...




