294.鎌瀬妥膺と西木崎倶子
第294話
5年生になり、私が新しいクラスになってから数日が経った。
「...それで、美織ちゃんは私にピンクのバックをプレゼントしてきてですね...それに対抗する形...なんでしょうか?今度は敦鳥ちゃんまでもが水色のバックをわざわざ買ってきて私に...」
隣の席の西木崎さんとはそれなりに話をする機会が増えた。西木崎さんの方は私の事を面倒な相手と苦手意識はあっても心の底から私が嫌いというわけでもないらしく、露骨に私を避けるような事はしなかった。
もっとも、話題をふっかけるのは私の方で向こうはただ聞いているだけのパターンがほとんどなのだが...
「へぇ~、岩倉さんが独り言でバックが欲しいって言っただけでね...その美織と敦鳥って子、まるで忠犬みたいじゃん...」
「えぇ、実は私も内心ではそう思ってまして...」
こうして、たまにまともな返答してくれるようになっただけでも私としては嬉しい方だ。
「西木崎に岩倉様~!二人で楽しそうにしてて羨ましいですね~!この俺も是非とも混ぜてくれま...」
「いや、前にも言ったけどガールズトークに男子は禁制なんだけど?分かったら引っ込んでくれない?」
「うっ...西木崎の相変わらずの毒舌はメンタルを抉られるぜ...」
たまに私達が話しているのを見て鎌瀬くんが自分もと混ざりに行っては西木崎さんの毒舌で追い払われる...これはもはやお約束の展開となっていた。
「岩倉様とお話できるのが嬉しいって気持ちは分かるけどさぁ、そんなに邪険にされると俺...ちょっぴり悲しいんだぜ?」
「はぁ!?そういうのじゃないから!それは岩倉さんがせっかく私に話しかけてくれるのに無視するのは流石に気が引けるというか...不敬というか...まぁ、そんなところだから勝手な想像で勘違いしないでもらえる?」
う~ん?前から思っていたけど西木崎さんって蛇茨ちゃんに似ているような気がする...気が強いところとか、多少のツンデレ要素があるところとか...まぁ、強いて言うなら蛇茨ちゃんは社交的だけど西木崎さんの方は周囲から浮いてるという点が異なるね...
「それにちょっぴり悲しいなんて嘘つかなくてもいいから、わあんたは私以外にも会話できる人はたくさんいるのは分かってるし...」
「いや、完全に嘘ってわけじゃないんだけどな...」
一方の鎌瀬くんは普通のクラスには必ずいそうなお調子者な人気者タイプで貴族や一般学生を問わず、交友関係が広い。クラスで浮いてる西木崎さんや近寄り難い私にも普通に声をかけられるのは彼自身のコミュニケーションの高さゆえだろうか?
「あっ、鎌瀬くん!ちょっといいかな?」
「おう、いいぜ!...てなわけで俺はお暇させてもらうぞ!」
「はいはい...」
今もまたクラスメートの一人、奈良屋さんに声をかけられているくらいだ。そして、そのまま奈良屋さんに着いていく鎌瀬くんを西木崎さんは何とも言えない表情で眺めていた。
「...一緒にいる事が多い鎌瀬くんが奈良屋さんに取られて寂しいんですか?」
「だから!そういうのじゃないって!別にアイツの事なんか...」
私のちょっと意地悪な問いかけに強く反応しちゃってる時点でねぇ...
「なら、鎌瀬くんの事は嫌いなんですか?」
「いや、完全に嫌い...というわけでもないけど...」
「ふふっ、西木崎さんにも可愛らしい部分があるのですね。」
「何かムカつくんだけど!?」
どうやら、新しいクラスは思っていたよりも楽しめそうだ。




