293.新たなクラスと顔見知りの男女
第293話
あの後、私は見かねた蛇茨ちゃんが注意するまでの間、清芽ちゃん、奏ちゃん、真里愛ちゃん、優里ちゃん、姫由良ちゃんの四人にずっと抱きつかれていた。
それにしても、普段は大人しい常識人枠な優里ちゃんまで久しぶりにあんな大胆な行動に出たのは驚いていた。それほどまでに元気になった私と会えたのが嬉しかったという事なのだろうか?
「さて、そろそろ自分のクラスに向かわなければ...あっ、そういえば聞いていませんでしたが私のクラスって何組ですか?」
「えっと、玲奈ちゃんは2組のはずですね...」
「なるほど、2組ですか...」
1年生の時が2組、2年生と3年生の時が3組、4年生の時が1組と来て今回は2組か...
「あっ、そうだ!せっかくなので私が2組の教室までご案内をいたし...」
「いいえ、別に教室の場所くらいは分かりますので大丈夫ですよ。というか、5年生の教室は全クラス同じ階なのでどうせ途中までは一緒ではありませんか。わざわざ案内するまでもないですよ。」
「そっ...そうでしたね...」
案内を申し出た清芽ちゃんを丁重にお断りしたのだが、清芽ちゃんはなぜだが予想以上に落ち込んでいる様子だ。
別にわざわざ案内するまでもなく、途中までは全員一緒だと言うのに...
「ふん、今度は抜け駆けできなくて残念だったわね!」
「これ以上の抜け駆けは許されませんよ?」
「まぁ、流石にあからさま過ぎですね...」
「清芽ちゃん、残念だったね!」
「やれやれ...」
「.........」
上から奏ちゃん、真里愛ちゃん、優里ちゃん、姫由良ちゃん、蛇茨ちゃん、沙友里ちゃんの順番だ。
相変わらずの平常運転な奏ちゃん、真里愛ちゃん、優里ちゃん、姫由良ちゃんはともかく、蛇茨ちゃんは呆れていて沙友里ちゃんは何を考えているのか、無言で清芽ちゃんを見つめていた。
「まっ...まぁ!とにかく、皆で教室まで向かいましょうか!早くしないと朝の会の時間になってしまいますし...」
「はぁ...不服ですが仕方ありません...今回だけは妥協しますよ。」
こうして、私達は5年生の教室がある階に上がり、それぞれの教室へと向かったのだった...
・・・・・
ようやく自分のクラスの教室に到着した私は少しばかり緊張していた。
(今までとは全く違う新しいクラスで私は上手くやっていけるのかな?)
何せ、今年度のクラスにはグループの皆は不在。見知っている人がいる可能性もあるとはいえ、私は公爵令嬢。この学園において気安く喋りかけていい存在ではない...などという思い込みから周囲から避けられてしまうかも?なんて不安があったのだ。
(覚悟を決めなきゃね...)
もちろん、周囲にはそんな不安を感じさせないように気丈に振る舞っておくつもりだ。
そして、扉を開けて教室に入った。
「おはようございます。」
その瞬間、やっぱりというか...それまではざわついていたクラスが一気にシーンと静まり返ってしまった...
新たなクラスメート達に挨拶しながら教室内を見渡すと見知った顔が何人かいた。特にその内の一人は私の姿を見るなり、私の元へと駆け寄ってくる。
「えっと、その...岩倉様!もう体調は治られたんですね!あつ、そうだ!席へとご案内します!」
「わざわざありがとうございます。鎌瀬くん...」
そう...私が兼光とのクリスマスデートの際にも会った鎌瀬妥膺くんだ。
「いえいえ!そのぐらい合点承知っす!」
鎌瀬くんに案内されて私は一番後ろの席に向かった。そして、そこにも見知った顔を発見する。
「おや、西木崎さんが隣の席でしたか。」
「はぁ...何?嫌だって言うの?」
西木崎さんがそう言うとクラスの空気が一気に変わったのが分かった。大方、一般学生の西木崎さんが仮にも私に不敬と捉えられない発言をした事にそれぞれに怒り、戸惑い、恐怖といった感情がひしめいているのだろう。
「いいえ、そんな事はありませんよ。これからよろしくお願いいたします。」
「ん...よろしく...」
しかし、私本人が特に気にはしていないためか、直接口を出してくるような生徒は皆無のようだった。
(正直、西木崎さんみたいな子がいてくれるのも気が楽でいいかな...少なくとも、過度に分かりやすい媚を売る馬鹿よりかはね?)
私の5年生としての学園生活はまだまだ始まったばかりなのだ...




