283.憩いの場
第283話
そんなわけで、私と修羅ちゃんと師嗣くんと橋本くんはクリスタルアイスシティー内の休憩所である『憩いの場』という場所にやって来ていた。
「さて、前にクリスタルアイスシティーに来た時にも利用させてもらいましたが、ここの休憩所は本当に充実してるんですね...」
「岩倉様が仰る通りです!クリスタルアイスシティーって休憩所まで本当に凄いんですよね。運営会社を本当に尊敬します!」
テーブルに座った私の口から出た呟きに師嗣くんがまるで興奮した様子で返事を返している。
クリスタルアイスシティーの休憩所にはたくさんのテーブルや椅子(それも宝石で作られてる)が並んでおり、おまけに付近には売店まである。まさに名前の通りに『憩いの場』と言えるべき場所なのだろう。
「せっかくですし、売店で何か買いませんか?ただ、座っているだけというのは皆さんも暇でしょうし...」
「いいですね!ハンバーガーもでもいいし、アメリカンドッグでも...」
「大炊御門様、そんなに食べると夕食が入らなくなりますよ。」
「それに食べ物ばっかりなのもあれだし...ついでに...飲み物も...」
そんな感じで話し合った末に師嗣くんと橋本くんがそれぞれ食べ物と飲み物を買いに売店に向かっていった。
本来なら従者達に買いにいかせてもいいはずだが、そこは二人の紳士的な精神なのだろう。私も彼らの意志を尊重して特に口に出す事はなかった。
・・・・・
「あっ、そうだ...その...岩倉様...少しだけ、私の話...いや、質問に答えてくれませんか?」
思い出したかのように修羅ちゃんが口を開いたのは偶然にも師嗣くんと橋本くんが席を立って、私と二人っきりになったちょうど1分後の事だった。
「えぇ、別に構いませんが...」
わざわざ私と二人っきりになったタイミングで切り出したのだから、恐らくは師嗣くんと橋本くんには聞いて欲しくない...もしくは、聞かれてしまうのは少しまずい質問なのだろうか?
「その...岩倉様はもしも、ずっと大好きだった姉が...全く別の姿で生きているのを見つけたとしたら...どう思いますか?」
「えっと、中々難しい質問ですね...」
前世でも今世でも私には姉がいないので感情移入並びに回答がしにくい質問だった。
「簡単で良いので...答えていただけませんか?」
「そうですね...逆に質問をする形になってしまいますが、修羅ちゃんはその姉という人物をどう思っているのですか?」
「大好き...凄く大好きでした...」
私の質問に修羅ちゃんは即答だった。その反応からして修羅ちゃんには姉がいて...
ん?ちょっと待てよ...
(美織ちゃんに調べてもらった情報の中には今帰仁修羅は一人っ子だったはず...)
となると、二人のどちらかが嘘を言っている事になるけど...個人的にあの時の美織ちゃんも、今の修羅ちゃんも嘘を言っているようには見えなかったんだよね...
「大好きだったのにある日、突然のわ...あっ、余計に喋りすぎましたね...」
「今は深入りはしないでおきます...私個人の考えになりますが、その姉が今が幸せそうであれば何もせずに影で見守ってあげるというのも選択肢の一つだと思いますよ?」
「見守る...ですか...」
少なくとも私はそう思う。自分といた昔よりも、今の方が幸せというのであれば余計な邪魔はするべきではないだろう。
「おーい!ハンバーガーを買ってきましたよー!」
「大炊御門様...そんな大声を出す必要は...」
向こうの方から売店に向かっていた師嗣くんと橋本くんがこちらに帰ってくる声が聞こえた。
「その...続きはまた...今度で。」
「そうですか、私にできる事ならいつでも相談してくださいね?」
私がそう言うと修羅ちゃんが私に対して一瞬だけ意味深な視線を向けてきた。
その眼差しはどこか、懐かしさを感じさせるものだったような気がするのは偶然だったのだろうか?




