279.警報ブザー
第279話
亀寿ユメ。去年、私達のグループメンバーと当時の1年生が対立していた際に敦鳥ちゃん曰く、私に嫌悪の感情を持たずに客観的に事態を静観していた数少ない人物だったらしい。
私はそんな彼女に興味を持って敦鳥ちゃんに依頼していろいろと探らせていたのだが...地味にこうやって直接対面するのは初めてだ。
「あなたが亀寿ユメ...さんですか?」
「はい、その通りです。」
敦鳥ちゃんの報告によればユメは私の事は割と好意的に見ているが、陽菜と憩美ちゃんに対しては何故だか嫌っているらしい。
しかし、今の彼女の表情からはそれを全く読み取る事はできない。見事なまでのポーカーフェイスだ。
「おや、どうしましたか?」
「えっ?いいえ!何でもありませんよ?」
危ない...やっぱり、私の方は表情に出やすいタイプなのかな?ユメに不審がられてしまったし...
「そうですか。私はてっきり.........長寿院さんに私を探らせた事がバレてるのか不安がっているかと思いましたよ。」
「なっ!?どうして...」
何でバレちゃっているの!?もしや、敦鳥ちゃんが...
「言っておきますが、別に長寿院さんがあなたを裏切ったというわけではありませんよ?長寿院さんはあくまで自分の個人的な行動とごまかしていましたが、私の目から逃れる事はできませんよ。今までの様子からそもそもあの子は自発的にこういう事をするタイプではないと分かっていましたし、そうなれば友達...もしくは大恩がある先輩に指示されたと考えれば筋が通っちゃうんですよ?」
どうやら、ユメは鋭い観察眼と洞察力の持ち主だったようだ。彼女がもしも私の敵になるとするならば、思っていた以上に厄介なのかもしれないね...
「えぇ、そうです。あなたに興味を抱いたので敦鳥ちゃんに探らせてもらいました。ご迷惑をかけて申し訳ありません。」
「申し訳なさそうにしないでください。岩倉先輩に探ってもらえるのならそれはそれで光栄なんです。」
相変わらず、表情からは読み取れないがユメが私の事を好意的に見ているという点はやはり事実らしい。
「そうです!せっかくの初対面ですから、岩倉先輩と二人でゆっくり楽しくお話ししたいのですが...ちょうど良いアトラクションもありますし、ご一緒願えませんか?」
「えっ?あっ、申し訳ありませんが...」
流石にトイレにいる陽菜を放置して別の場所に向かうわけにもいかない。そう考えた私がユメからの申し出を断ろうとした時だった。
(...ん?何だろう?この感じは...)
私の頭の中で大音量の警報ブザーが鳴り響く...まるで、そんな感覚に見舞われたのだ。
そう...【絶対にこの申し出を断ってはいけない!】的な感じだ。
(いったい、何が...)
よくは分からないが、私がこの世界に転生してから修正力なるものも働いているくらいだし、ここは己の直感を信じてユメに同行してみようと思う。
「ゴホン...いいえ、気が変わりました。あなたに同行しましょう。」
「ありがとうございます。では、参りましょう。」
果たして、この選択は正しかったのだろうか?




