276.タイムマシン?投資なんてしません!
第276話
肌寒かった冬もようやく終わりを迎え、暖かい春の陽気がやって来る3月になった頃だった。
「よっ!どうもっ!岩倉様、お久しぶりっ!」
「えっと、あなたは岡崎雛恵さん...でしたよね?」
この特徴的な喋り方...私に声をかけてきたのはミラピュアの玲奈お嬢様の取り巻きの一人の内、今世の私が意図的にスルーしていた唯一の存在...岡崎雛恵ちゃんだ。
「YES!YES!ん~?かれこれ出番は26話以来かな~?そこから250話もの間は出番なしで作者には本当にプンプンである!あっ、読者の皆さんもお久しぶり~!」
「いや、誰と話しているんですか?作者に読者って...私達が暮らす世界は漫画や小説の世界じゃないんですし...」
厳密にはミラピュアというゲームの世界なんだけどね...まぁ、今はそんな事はどうでもいい。問題は今までは特に音沙汰のなかった雛恵ちゃんが何の目的で私に声をかけてきたのかだ。
「それで、私に何かご用ですか?」
「う~ん、簡単に言うとだねぇ...岩倉様は投資というものに興味はあるかい?どうせなら、是非とも協力を願いたいのだよ。」
「えっ?投資って...しかも、私を勧誘しているのですか?」
雛恵ちゃんに聞いた直後に私ははっと思い出してしまった。
そう...この子の肩書きは発明令嬢。つまり、投資してほしいものっていうのは...
「実は我が父上がタイムマシンを作ろうと考えているのである!ズバリ!資金面の援助を岩倉様にとお願いしてるのだ~!」
「タイムマシン...ですか?」
うん、やっぱりロクなものじゃなかったー!
「そうだとも!成功すればまさに世紀の大発明と言えるだろう!それで、岩倉様は応じていただけるのか!?」
当たり前だが、私の答えは既に決まっているのだ。
「申し訳ございませんが、私はお断りさせていただきます。」
「うむ!そりゃ、そうだろうな!お断りさせていただく...って!何でぇ!?」
雛恵ちゃんは私が応じるものだと信じ切っていたようで酷く驚いている。いやいや!私がこんな話に乗るとでも?
あいにくだね...ミラピュアでの玲奈お嬢様と雛恵ちゃんのやり取りを知ってる以上、私に断る以外の選択肢など存在しないのだよ...
前にも言ったが、ミラピュアでの雛恵ちゃんとその父である岡崎幸英の発明品は失敗作が多い。それに投資した玲奈お嬢様が二次被害にあったり、大損したりとロクな目に遭わなかったのだ。
まぁ、玲奈お嬢様はヒロインを虐げるために岡崎父子の発明品を悪用しようとしていたので自業自得と言われても否定はできないのだが...
「あのですね、タイムマシンなんて本当に実現可能だと思っているのですか?」
とはいえ、そんな事を言ってもややこしくなるだけなので私は『実現性の低さ』という違う面で断るつもりだ。
「可能だとも!サイエンスに不可能などない!今に過去や未来でも簡単に...」
「話がお済みでしたら失礼しますね。」
「ちょっとぉ!?」
これ以上、雛恵ちゃんと話していたらこっちのペースまで狂わされちゃいそうだもの...
「お待ちあれ!せめて、こちらの『声帯変換機』と『髪色変換機』だけでも受け取っておくれよ!この二つは父上じゃなくて私が作った発明品の中でも最高傑作と呼ばれているほどの...」
「では、失礼しますね。」
「辛疎!?てか、話を聞けいっ!」
まぁ、確かに辛疎かもだけどさぁ...こちらはあくまで岡崎父子の発明品を警戒しているのであって雛恵ちゃん本人が嫌いというわけじゃないから勘違いしないでね!
・・・・
「ちぇっ、逃げられちゃったな。」
去っていく玲奈の背中を見届けながら雛恵はそう呟いた。
(もしも、タイムマシンが成功すれば私達はもちろんのこと、それに投資していた岩倉家の名声も上昇!よって互いにメリットが大きいと考えて持ちかけたのだが、よもや断られてしまうとは!おまけに手土産代わりの私の発明品すらも受け取ってもらえず終い...もしや、岩倉家を利用しようとした事が気に入らなかったのだろうか?もしくは、私達には分からない先の出来事を読んでいたというのか!?恐ろしや...)
※不正解。単純に玲奈が自らに起こりうる面倒事を避けたかっただけである。
何はともあれ、完全なる善意のつもりで玲奈に話を持ちかけた雛恵は困惑していた。
「やむを得ん。代わりに他の誰かに...ん?」
そんな事を思っていた雛恵の視線の先には何やら悩んでいる様子の少女の姿が。
(おやっ?あれは岩倉様のグループの?まぁ、いいや。代わりにあの子に...)
新たな取引相手として狙いを定めた雛恵は駆け足でその少女の元へと向かったのだった...




