270.知らぬが仏
第270話
「あの...蛇茨ちゃん。」
お互いに少し気まずい状況の中、先に口を開いたのは...他でもない私だった。
「グループディスカッション発表会での一件の事...前世の事を隠して玲奈お嬢様として、あなたを騙し続けてきた事...許してほしいなんて甘ったれた事は言いません。ただ、謝らせてください。」
そう言って私は蛇茨ちゃんに向かって頭を下げた。それを見た蛇茨ちゃんは慌てた様子で私の頭を上げる。
「いやいや!私こそごめん!グループディスカッション発表会での件はよく考えたら変な意地を張って玲奈やグループの皆を拒絶しちゃってたものだし...あと、玲奈の前世の話については知らなかったのは私だけじゃないんでしょ?それに知られた事に対する厄介な問題事も考えたら黙っておくのが正解だもんね。」
「では、私達は...完全に仲直りできたという認識で間違いないですよね?」
「うん、グループのメンバーにも明日会ったら、すぐにでも謝るつもりでいるから。」
あぁ、良かった...遂に蛇茨ちゃんと完全に和解する事ができたんだ...これには玲奈グループの皆も喜ぶに違いない!
(本当なら今すぐにでも皆に報告しておきたいところだけど...)
私は自分の口でグループの皆に謝りたいという蛇茨ちゃんの意志を尊重しなければならないと思っている。だからこそ、私が家に帰ってすぐに携帯で報告するというのはNGだろう。
「ところで聞きたいんだけど、玲奈の前世の世界の名前はどんなだった?」
「いや、私の前世の名前?そんなの至って普通に決まってるし...あれっ?」
何故だろう?前世での暮らしについては完全に記憶しているはずなのにどうしても前世での自らの名前だけが思い出せないのだ。
「ははっ!また、いつものお嬢様言葉が崩れてるよ?」
「あっ、やってしまいましたね...」
「いや、私は個人的に玲奈はそっちの方が似合ってると思うよ。だから、明日からはその口調で!皆の前で無理なら私と二人っきりの時だけでもいいから!ね?」
私としても堅苦しいお嬢様言葉を使うよりかは気が楽になるのでその提案を受け入れる事にした。
もちろん、私の前世を知った蛇茨ちゃんと二人っきりの時だけなんだけど...
「えぇ、分かりまし...いや、分かったよ...蛇茨ちゃん。」
「あっ、二人っきりの時は私の事は呼び捨てでいいよ!こっちだけ玲奈って呼ぶのも気が引けるし!」
「分かったよ、蛇茨。」
あれっ?この流れはどっかで見たような...って!確かミラピュアで蛇茨ちゃんとヒロインとの間でこんなやり取りあったよね!?
「えへへ...玲奈と私の二人だけのひみつができちゃったね?」
「そうだね...」
まぁ、今は蛇茨ちゃんと無事に仲直りできた事に安堵している最中だし、触れないでおこう...
ついでに蛇姫が見覚えのあるキーホルダーを身につけていた事、蛇姫と蛇茨ちゃんがとてもじゃないが初対面とは思えなかった事、最後に私と蛇茨ちゃんの仲直りがあまりにも上手くいきすぎている事も...
私がこれらについて触れるのはまだ先の話だろうね...




