267.判断力が功を奏す
第267話
蛇の入れ墨の女...蛇姫はどうやら、発言からして私が蛇茨ちゃんを見捨てると予想していたらしい。私がここに来たのは少し予想外と面白がっているかのような表情をしていた。
「あなたが蛇茨ちゃんを連れ去った挙げ句に蛇茨ちゃんの家と姫由良ちゃんの家に電話をかけてきた蛇姫...さんで間違いありませんか?」
「えぇ、その通り。私が蛇姫よ。」
蛇の入れ墨に紫色の髪って時点でほぼ確定していたようなものだったが...やはり、目の前にいる女が蛇姫で間違いないようだった。
「あなた、運が良かったわね~!同伴していたのが5m後ろに隠れているSPで...もしも、これがあなたのグループの同級生だったのなら、この大坪蛇茨の命はなかったわよ?」
「なっ...!?」
つまり、蛇姫の話が正しいならあの時に私が奏ちゃんと優里ちゃんの同行を許していた場合は蛇茨ちゃんは殺されていたってことになる。私の判断力が功を奏したみたいだね。
それに蛇姫は岩倉家の専属のSPがいる事を見抜いている。しかも、距離まで正確にだ。
(いやいや!完全にバレちゃってるじゃん!私はあれほど念押ししたのに!)
今ばかりは父にもだし、そのSPにも一言ぐらいは文句を言ってやりたい気分だ。
「あっ、ちなみにだけど...自分の父親やそのSPを責めるのはかわいそうだからやめてあげて。単に私達が凄いってだけで普通の人間なら見抜けていないはずだからね。」
「えっ?あっ、そうでしたか...」
う~ん?まぁ...確かに普通の人間なら公爵家専属のSPを見抜くのは難しそうだし、単に蛇姫が凄いだけなのかな?
...って!!今はそれどころではない。
「蛇茨ちゃんを誘拐して...あなたはいったい、何を企んでいるのですか!?」
「そうね、まぁ...話してあげてもいいけど、まずは邪魔なSPを下がらせてもらえないかしら?話している途中に撃たれでもしたら、流石の私でもひとたまりもないからねぇ。」
どうやら、近くにSPがいる状態では交渉にすら応じてもらえないらしい。私の命がちょっと不安だが、この際だ。仕方がない...
「分かりました。少々、お待ちください...」
「えぇ、手短にお願いね。」
私は一旦、路地裏から離れるとSPに対して撤収するように指示した。私の指示を聞いたそのSPも当初は難色を示していたようだが、雇う側である私の意向には逆らえないらしい。せめてもの抵抗として私に防犯ブザーを渡して引き下がった。
「お望み通り、SPは撤退させましたよ。次はあなたが約束を守る番です。」
「ふ~ん?ところで質問なんだけどさぁ...私が約束を破ってあなたを殺して逃げちゃうとは思わなかったわけ?」
「えぇ、あなたがすぐに約束を破るような卑怯な人間だったなら、わざわざ父やSPを気にかけるような発言をしたりはしないでしょう?」
そう...私自身もよくは分からないのだが、蛇姫は決して約束は破らないだろうという謎の安心感があったのだ。
「ふふっ!ほんとに面白いわね~!あなたって!」
「えっと...ありがとうございます?」
う~ん?どうやら、私は蛇姫のお目に叶っちゃったみたいだけどこれって喜んでもいいやつなのかな?
いやいや!褒めてくれるくらいなら、さっさと蛇茨ちゃんを解放してほしいんだけど...
「じゃあ、私とゆっくり話しましょうか!私の目的もだし...この子についても!」
そう言った蛇姫は笑いながら、蛇茨ちゃんを指差したのだった...




