265.大坪一家の状況
第265話
その日の私達は憂鬱さと不安を抱えながら、それぞれのクラスで授業を受けていた。
(そりゃ、蛇茨ちゃんがあんな事になってると知ったらねぇ...ダメだ、授業に全然集中できない...)
また、朝の騒ぎを目撃していたらしい生徒達から何事かと訪ねられて私は必死に誤魔化していた。
しかし、中には...
「その...岩倉様のような淑女な方が大声を出すなんて滅多にないですよね...やっぱり、何かあったとしか思えないのですが...」
「その...修羅ちゃん?気持ちはありがたいのですが...私は淑女と呼ばれるほどの女ではありませんよ?」
なぜかやってきた修羅ちゃんのように妙に鋭い子達もいて、その子達を誤魔化すのには本当に苦労したものだ...
「皆さん、揃いましたね?とりあえず、今から大坪家に向かいます。いいですね?」
「「「「はいっ!!!!」」」」
そして、今...この日の学校の時間を終えた私達は詳しい事情を知るべく、全員で蛇茨ちゃんの家に向かう事になったのだった...
・・・・・
「突然押し掛けてしまった事はお詫びします...ですが、私達がなぜここに来たのかはお分かりですよね!?」
「はい、岩倉様...」
蛇茨ちゃんの家にて私達は蛇茨ちゃんの父、大坪嘉明さんと対面していた。彼も蛇茨ちゃんの身に何かあった事は知っているようで苦渋に満ちたような表情を浮かべていた。
「では、大坪家にも蛇姫という人物から脅迫の電話がかかってきたと...」
「蛇姫...あっ、はい!内容はその...『お宅の娘は預かった。娘の命が惜しければ、この事は警察には絶対に言うな』というものでした。」
おや?姫由良ちゃんと大坪家とでは脅迫の内容が違うね...これは何かしらの意味があるのだろうか?
「ちなみに聞いておきますが、警察には通報したのですか?」
「いいえ、背後で大きな力が動いている可能性がある以上は簡単に警察には伝えられません...」
嘉明さんは私達に対して申し訳なさそうに話しているが、彼の判断は決して間違いではない。
私がいた前世の世界とは違ってこの世界ではたとえ、警察に頼ったとしても相手側が大貴族とかの場合は賄賂や権力などで容易に都合よく対処されてしまう事も多い...いや、前世の世界でも政治家といった権力者の罪は揉み消される事は珍しくはなかったが...
以前の高松家の一件で素早く警察が動いてくれたのも、被害者の中に高松家よりも格上の岩倉家と三条家の関係者がいた事や高松家を裏で操っていた者が高松家を見限って助け舟を出さなかったという点が大きい。はっきり言って、この時は単純に運が良かったのだと言わざるをえないのだ。
「あっ、それはそうと...蛇茨さんのお母様はこの事を知っているのですか?」
「えっ!?あっ...いいえ、妻はお義父さんの病気が原因で昨日から一時的に実家に帰っています。それで、心配事を増やすのも悪いと考えていまして...」
「お見舞い...そうでしたか...」
なるほどねぇ...この状況で蛇茨ちゃんのお母さんが帰って来たらどうなる事やら...




