262.犬はワンワン、猫はニャンニャン
第262話
岩倉家を訪ねて来るなり、早々に姫香を押し退けて私の部屋に入ってきた人物...長寿院敦鳥ちゃんもまた、陽菜と同じように私の部屋のこたつで丸くなっていた美織ちゃんを見て、さっきまでの嬉しそうな様子から一転して表情を曇らせてしまった。
(うわぁ...十中八九、怒ってるよね?)
敦鳥ちゃんの思考を理解したわけではないが、それでも敦鳥ちゃんが美織ちゃんに対して怒っている事ぐらいは私にも分かった。
「...ん?あれれっ?まさかまさかの長寿院先輩じゃないですか~!どうもっ!明けましておめでとうございます~!その様子からして長寿院先輩も玲奈様に会いに来たんですね~!この寒い中でご苦労様ですね~!」
「.........」
一方で当の美織ちゃんにはどうやら、自らが敦鳥ちゃんを怒らせているという自覚はないらしい...それどころか、呑気に新年の挨拶をしているくらい...いや、分かっててわざとそういう対応をしているような気も!?
「玲奈お姉様?なぜ、あなたのお部屋にこのメスガキ...ゴホン!今城様がおられるのでしょうか?しかも、玲奈お姉様のものと思われるこたつに丸まって...」
「えっと、それはですね...」
微かな怒りのオーラを纏わせる敦鳥ちゃんを宥めながら、私は陽菜の時と同じように敦鳥ちゃんにも美織ちゃんが来訪した理由を説明してあげた。
「なるほど、詳しい事情は分かりました。」
「そうですか。よかった...」
よし、これにて一件落着...と、いきたかったんだけど...
「そのですね!百歩...いや、千歩...いいえ!一万歩譲って!今城様が岩倉家の屋敷にお邪魔しているのは良しとしましょう!私と同じく駒同士ですから...ですが!今城様だけが玲奈お姉様のこたつで丸くなっているのは許せません!ズルいです!」
そんな感じで敦鳥ちゃんはほっぺを膨らませながら、私に抗議してきた。その様子が子犬みたいでちょっと可愛らしい...
「やれやれ、心が狭いな~!長寿院先輩ったら~!玲奈様のこたつぐらい、可愛い後輩に譲ってあげようという精神はないんですかにゃ~?」
「黙っててくださいね。えぇ、確かに私にも可愛い後輩には優しくしてあげたいという気持ちはありますが...残念な事にその可愛い後輩という分野にはあなたは当てはまらないんですよ!?」
「えぇっ~!?何でですかそれ~!?」
「私は単に事実を言ったまでです。」
ここは岩倉家の屋敷だというのに美織ちゃんも敦鳥ちゃんもいつの間にか、私と陽菜をそっちのけでお互いにギャーギャーとヒートアップしてしまっている...
「はぁ...まるで、忠犬とメス猫の喧嘩じゃん...」
「陽菜、二人を動物扱いしては...う~ん、否定はできないような?」
ついさっきまでは怒っていたはずの陽菜の口から出てきたその言葉に私も心の中では思わず同意してしまったのだった。




