258.恋というのがよく分からない...
第258話
ご馳走を食べたり、ワイワイとおしゃべりをしたりと...グループメンバーとの楽しい楽しいクリスマスパーティーも終盤に差し掛かって来た頃だった。
「あの...ねぇ、玲奈ちゃん...ちょっと聞きたい事があるんだけど...」
「おや...姫由良ちゃん、どうかしましたか?」
今までは口数の少なかった姫由良ちゃんが急に私にこう言ってきた。
彼女はグループディスカッション発表会直後よりかはかなり明るさを取り戻してきたとはいえ、私と蛇茨ちゃんが仲違いしてしまったショックは未だに彼女の心を蝕んでいるのだ。
それでも、せっかくのクリスマスパーティーの楽しい空気を盛り下げないようにと配慮して精一杯明るく振る舞っているのは私やグループメンバーには丸分かりだが、皆も姫由良ちゃんの固い意図を組んで誰一人としてその事には触れてはいない。なので、今も普通の対応をしているのだ。
「玲奈ちゃんはその...今回の二条様とのクリスマスデートでさ...ドキドキ...とかって、しちゃったのかな?」
「えっ?私が兼光様にですか?」
「うん!クリスマスデートってドラマとかだと、そういう展開が多いじゃん?何気に気になってたんだよね~。ひょっとして、玲奈ちゃんも...」
「ドキドキと言われましても...」
いやいや!いくらクリスマスデートとはいえ、肝心の相手はミラピュアの玲奈お嬢様を断罪して破滅に追い込んだ攻略対象の一人、二条兼光なんだよ?
そんな相手にドキドキなんてするわけが...
『...何かあったら俺が玲奈を守ってやるからな。』
「...ん?あっ!あれっ?玲奈ちゃんの顔が真っ赤になってるよ!」
「えっ!?あっ!いや...」
しまった!私は完璧なるポーカーフェイスを貫いたつもりだったのに!あの時の兼光のかっこいい台詞を急に思い出しちゃったせいで...
「ふ~ん?なるほど~!つまり、二条様にドキドキさせられる事があったんだね~!玲奈ちゃんって分かりやす~い!」
「ちっ...違いますっ!!ゴホン...あのですね...あの時のは決してそのようなものでは...」
いやいや!違うからね!?あれは兼光が急にかっこいい台詞を言ってきたから、ちょっとビックリしちゃったってだけで...別に恋愛的な意味でドキドキしてしまったってわけじゃないからっ!」
「ふふっ!強がっちゃって~!それって似たような事だと思うよ?」
「いいな~!玲奈ちゃんにも乙女チック?的な一面があるんですね!」
「なるほど、可愛くて愛しいです...」
どうやら、途中から言葉に出してしまっていたようで姫由良ちゃんのみならず、真里愛ちゃんや沙友里ちゃんからもからかわれてしまう。
(やれやれ、私が兼光を恋愛対象として見れるわけがないのというのに...)
ミラピュアの原作知識がある私にとって兼光は要注意人物だ。百歩譲って友人としてなら許容範囲だが、下手に距離を縮めて恋愛的な関係にはなりたくはない。それこそ破滅に繋がってしまいかねないからだ。
「なっ!?ダメです!!玲奈ちゃんが二条家の御曹司の物になるなど...私は認められませんから!!」
「清芽...あんたは落ち着きなさいよ。」
一方で清芽ちゃんはなぜか、自分の事のように私と兼光が仲を深める事に猛反発していて奏ちゃんに宥められている。
「奏!?あなたは何とも思わないのですか!?私の...いいえ、私達の玲奈ちゃんが二条家の御曹司に奪われようとしているのですよ!?」
「う~ん、確かに思うところはあるわよ。玲奈様が二条様に奪われるのは悲しいし...」
「でしたらっ!」
「だけどね...一番大切なのは玲奈様の幸せなのよ。玲奈様が二条様と本気でそういう関係になっていく事を願っているのであれば...潔く身を引いてそれを見守ってあげるのが本当のお友達なんじゃないの?」
「それはっ...」
奏ちゃん...ミラピュアの時以上に私の事を考えて私のために動いてくれるなんて!ちょっと嬉しくなっちゃったよ...さすがの清芽ちゃんもこれには反論できなかったみたいだ...
「では!玲奈ちゃんが幸せになる事を願って!乾杯~!」
「「「「乾杯~!」」」」
「あの...皆さん...」
いやいや!真里愛ちゃんに乗せられる形で皆も乗っちゃってるけど...私と兼光の関係が進展する事なんて別に願わなくてもいいからね?
こうして、楽しい楽しいクリスマスパーティーはあっという間に過ぎていったのだった。
「玲奈ちゃんの女の子らしい顔...蛇茨ちゃんにも見せてあげたかったな...」
「姫由良ちゃん...」
余談だけど、姫由良ちゃんのこの一言を聞いた私は来年こそは蛇茨ちゃんと完全に仲直りできたらな...と願ったのだった。




