255.クリスマスデートの尾行者達 その③
第255話
奏と師嗣が交代でクライムエコーの前に張り込み続けて1時間が経った。
「ふぅ...やっと俺の休憩の番だ...全く人使いが荒いもんだぜ...」
何度か張り込み役の交代を続けて、今は奏の番。師嗣は自分の自由時間ができた事に安堵していた。
(さて、この自由時間は何に使おうか...とりあえず、先にトイレだけは済ませておくとしよう...)
そう思った師嗣が近くにあったトイレへと向かおうとした時だった。
「あれっ...大炊...御門様?こんにちは...」
「ん?今帰仁さんだよね?終業式以来かな?」
師嗣と同じく明成学園初等部1年生の今帰仁修羅と遭遇した。ちなみにこの二人はクラスメート同士である。
そのため、気安く会話をするぐらいの仲ではあるのだ。最も、修羅が引っ込み思案な部分を見せているせいで肝心の会話は長く続かないのだが...
「へぇ、大炊御門様...意外...クリスマスは家で引き籠って...ゴロゴロしながらゲームしてる...みたいに思ってた...」
「おいおい...奏様といい、今帰仁さんといい...俺のイメージ酷すぎやしないか?」
師嗣は自分がそんな感じに思われていた事にちょっとだけショックを受けながらも、冷静に突っ込んでいた。
「ところで今帰仁さんの方は何をしているんだ?とてもじゃないが、クリスマスに似合わない服を着ているみたいだが...」
「似合わなくて...悪かったね...」
「いや、すまん...」
謝ったとはいえ、師嗣がそう思うのも無理はない。何せ、修羅はこの季節だと風邪を引いてしまいそうな薄着の長袖の服を着ていたのだ。それも、少し派手な...
「あっ...話を戻すけど...私が何でここにいるのか...だっけ?それは簡単...尾行...だよ。」
「ん?尾行って...誰をなんだ?」
「あなた達...と同じ...」
「なっ!?」
奏と師嗣は自分達の行動の目的が第三者にバレないように細心の注意をしつつ、玲奈と兼光を尾行していたつもりだった。実際に周囲の人達は姉と弟が一緒になってクリスマスを満喫しているくらいにしか見えていなかっただろう...
しかし、この今帰仁修羅という少女は簡単に見抜いてしまったではないか...
(マジか...いったい、彼女は何者なんだ?)
「...いったい、彼女は何者なんだ?って、思った?」
「えっ!?いや...」
またしても、自らの思考が読まれてしまった事に師嗣は動揺を隠せていなかった。
「何者なのか...それを聞きたいのは...こっち...大炊御門師嗣...あなたは何者?」
「いや、俺は大炊御門師嗣だけど...どういう意味だよ?」
師嗣には心当たりはあるがあくまでも、しらばっくれた態度は崩さない。どうにかして切り抜けたいところなのだが...
「確かに...大炊御門師嗣は...今と私が知る世界に存在する。だけど...あなたはいない...」
「.........」
この発言を聞いた師嗣は奏にすら明かしていない自らの秘密を修羅には知られていると確信した。
だが、ここで認めてしまっては今後の行動に支障が出てしまう。なので、上手くごまかすしか方法はない。
「誰が何と言おうと、俺は正真正銘の大炊御門師嗣...それだけだ。」
「そう...なら、そういう事に...しておいてあげる...今は。じゃあね...」
幸いにも修羅は深くは追及する事なく、その場を立ち去っていった。とはいえ...師嗣にとってまさかの事態である事には間違いない。
その後も師嗣の緊張と動揺はしばらくは収まらず、見かねた奏からも心配されてしまうのは別の話である...




