253.クリスマスデートの尾行者達 その①
第253話
玲奈が二条兼光とクリスマスデートをすると聞いて菊亭清芽は気が気でなかった。
(何でですか?何で玲奈ちゃんは最初のお友達である私よりも二条兼光との関係を優先させるのです?)
公爵家同士の家の付き合いもあって玲奈が断れない事ぐらいは頭脳派の清芽にはもちろん、分かっている。
それもあってか、実際に玲奈からクリスマスデートについて説明された時も他のグループメンバー達とは違って清芽は静観を装っていたのだ。
だが、それでも玲奈が兼光とデートに行く事に対してモヤモヤしてしまう。これが何を意味するのかなど一目瞭然...完全なる嫉妬心だ。
(そうです!二人のデートを尾行してしまいましょう!あわよくば、デートを台無しにしちゃえば...二条兼光の悔しがる姿をあざ笑ってやりましょう!)
今の清芽は嫉妬心のあまりにクリスマスデートを台無しにしてしまえば兼光だけではなく、玲奈当人からも嫌われてしまう可能性がある事に頭が及んでいなかったのだった...
・・・・・
「まさか、クライムの歌姫が来店していたとは...これは予想外でしたね。」
デート中の玲奈と兼光を追ってクライムエコーに入った清芽は偶然にもクライムの歌姫の歌声を聞いていた。
クライムエコーに入るなり、玲奈と兼光が筑波百子に引っ張られるようにして個室に向かっていく姿を目撃した清芽は慌てて百子達が入った個室の隣の個室を借りた。
そして、個室の外の扉から玲奈達の様子を伺っていた。幸いにも、今のところは誰にも気づかれてはいないようだ。
(ダメです...やっぱり、聞こえませんね...)
特別個室ならまだしも、クライムエコーの普通の個室は防音性が高すぎる...扉のガラス越しに姿はチラリと見えても何を言っているのかまでは全く分からない。
清芽が悪戦苦闘していたその時、クライムの歌姫の歌声を聞いて特別個室の前に来て今に至るというわけだ。
(まずい...玲奈ちゃんが!)
お手洗いなどの理由で個室を出ていたのだろうか?何と玲奈もクライムの歌姫の歌声に誘われて特別個室の前にやって来ているではないか。咄嗟に清芽は所持していたサングラスとマスクを身につけて顔を隠す事でその場をやり過ごそうと試みた。
その結果、玲奈は清芽にこそ気づかなかったが別の知り合いを見つけたらしく、小声で話してかけているのを見てしまった。
その人物とは...
(ん?あれは...橋本くん?)
西園寺家の分家、橋本伯爵家の令息で今年になって明成学園に入学してきたばかりの橋本実臣だった。彼は玲奈と会話を...それも、楽しそうにしているではないか。
(本家である私を差し置いて玲奈ちゃんとイチャイチャ!?橋本実臣!許せませんねぇ...)
橋本家は伯爵家といえど現当主の素行の悪さが原因で経営は上手くいっておらず、菊亭派閥の他の人間からも敬遠されている。
そんな事情もあって実臣は明成学園に入学する以前は清芽と顔を合わせる機会もなかったため、実臣の詳しい人間性を知りえなかったのだが、今のでハッキリした...少なくとも、清芽の頭の中ではだが。
(一見、真面目そうに見えて結局は親も親なら子も子でしたか...冬休み明けに色々と問い詰めてみる必要がありそうですね...)
清芽はそう決意を固めながら、その後も玲奈と兼光のクリスマスデートの尾行を続けたのだった...




