250.戦線離脱!?
第250話
私が百子と兼光が待っている個室へと戻ってみると...
「おっ!来た来た!待ってたぞ!見たか、だから俺は言っただろ?玲奈は絶対に戻ってくるとな!」
「あらあら~!少しばかり、遅かったですわね?てっきり、私の歌に恐れをなしてそこの二条兼光様を生け贄にして逃げたと思っておりましたわ~!」
「こらっ!うるさいぞ!負け惜しみか?人を勝手に生け贄扱いするな!大体、玲奈が俺を見捨てて逃げる訳がないだろう?」
どうやら、私のいないところで謎の賭けがおこなわれていたらしい...もちろん、私は兼光をおいて逃げるつもりなんてなかったけど...
「すみません、クライムの歌姫という方の歌を聞き惚れていて遅くなってしまいました。」
「「くっ...クライムの歌姫!!??」」
私の口からクライムの歌姫というワードが出た瞬間、百子と兼光が驚いた様子で私を見つめてきたではないか。
「ん?二人ともどうしたのですか?」
「なぁ、玲奈?お前...本当にクライムの歌姫に会ったのか?」
「はい、本当に素晴らしい歌声でしたよ。プロの歌手や作曲家の皆さんが彼女を絶賛するのも当然ですね。」
私がトイレから戻ってくるのが遅れた理由は特別個室の手前にてクライムの歌姫の歌を他の人達と聞いていたからだと説明し終えると百子と兼光は慌てた様子で私に詰め寄ってきた。
「何で...何で!私に教えてくれなかったんですの!?私、クライムの歌姫様の大ファンですのに~!聞きたかったですわ~!」
「おいおい...マジかよ。しまった!今度こそはその正体を暴いてやろうと考えてたんだがな...逃してしまったな。」
百子はクライムの歌姫の大ファンだったからという理由、一方の兼光は未だに謎に包まれているクライムの歌姫の正体を自らの手で暴きたかったというそれぞれの理由で歌姫に会えなかった事を残念がっていた。
「はぁ...この私がクライムの歌姫様に次に会えるのはいつの日になるんですの?ただでさえ、滅多に会えないお方ですのに~!」
「今回もクライムの歌姫の正体を暴けなかった...俺だって悔しくて仕方がない!」
「二人とも...落ち着いてください。」
なぜだか、私は悔しがっている百子と兼光をを宥める羽目になっていた...
「こうしちゃいられませんわ!」
「えっ?筑波さん?」
突然、百子が自らの荷物を持ち始めた。誰の目から見ても彼女が帰宅する準備を進めているのは明らかだ。
「まだ、近くに歌姫様がいるかもしれませんの!急いで探しに行ってきますわ~!」
「いやいや!ちょっと待ってください!?私達との勝負はどうされるのですか?この場合ですと、戦線離脱したあなたの負けになりますが?」
自分から勝負に巻き込んでおいて向こうの都合で戦線離脱など、とんでもない話でしょ?
「何を言ってますの?まだ、私のもう一曲と岩倉様の勝負をしていませんわ!つまり、結果は引き分けも同然ですわ!では、さらばですわ~!」
「はぁ!?」
そんな謎の理論を言い残すと、百子は個室から大急ぎで飛び出していった。大方、歌姫を追いかけに行ったのだろう。
結局、個室には兼光と私の二人だけが残されたのだった...




