22.発明令嬢と空気令嬢
第22話
「それでお二人ともこんな所で何をされているのでしょうか?」
私が二人に聞いてみると、
「それがさ~!私の父が開発した紛失物探査機の性能を試そうと真里愛の10円玉を適当に捨ててみたら...」
「私の10円玉がどこにあるか分からなくなっちゃったんですよ~‼」
(はぁ...)
予想してた通りの答えだった。雛恵ちゃんの実験に付き合わされた真里愛が被害を被った形だ。
「まぁ、でもやっぱ、10円ぐらい...」
「黙りなさい‼そんなんだから雛恵は発明令嬢なんて呼び名が付くんだよ‼」
(発明令嬢ねぇ~。)
ゲームをプレイした私は知っている。ゲームでは玲奈お嬢様の取り巻きだった岡崎雛恵はどういう子だったのかというと...
「じゃあ、明日は家から10円玉量産機を持ってこよう‼だから真里愛、安心したまえ!」
「嫌な予感しかしない‼ていうか、さりげなくこの場から逃げようとするな‼」
(ゲームと全然変わってないんだね~。雛恵ちゃんって。)
完全なるギャグキャラだった...
雛恵ちゃんの家である岡崎家は藤原北家高藤流、中御門家庶流の堂上家で家格は名家である。
そこまで聞けばその辺の貴族とさほど変わりないのだが、問題は現当主で雛恵ちゃんの祖父である岡崎幸英が大の発明好きという点だ。貴族の責務を全く果たそうとせず、発明家気取りで専用の実験室を作っては変な発明品ばかり作っている程に徹底している。
...が、完成した発明品のほとんどが失敗作かインチキなのだ。ゲームでは勝手に発明品を家から雛恵ちゃんによって何故かたびたび玲奈お嬢様(たまに真里愛ちゃん)が実験台にされて痛い目に遭う事も少なくなかったという当時は玲奈お嬢様アンチだった私から見れば笑いが止まらなくなるほどありがたい設定も存在した。(実際にされたシーンもゲーム中、何度かあった。)そんな事もあってか貴族達の間では雛恵ちゃんの事を発明令嬢と呼んでいた。
ヒロインと攻略対象が一度だけ幸英を頼るシーンがある。噂で幸英がタイムマシンを開発したと聞いた二人が未来を知るため彼を頼り、三人でタイムマシンで未来に出かける事になるのだが目的地に着くまで30分も待たされたあげく、やっと着いたと思ったら着いたのは幸英曰く『30分後の世界』と、もはやインチキを通り越して詐欺ともいえるレベルだった。もちろん、過去には戻れないためヒロインと攻略対象はただただ時間を無駄にしただけだったというオチがついた。
だが、ごく一部とはいえ玲奈お嬢様やその取り巻きがヒロインをいじめる道具として役に立った物もあるため、全くのダメ発明家というわけでもない。
話は戻るがそんな家に生まれた雛恵ちゃんが最終的にどうなるのかというと...
不明。
そう。全くもって不明なのである。どのルートでも雛恵ちゃんはヒロインと悪役令嬢の最終決戦直前には人知れずフェードアウトしているのである。ラストで岡崎家自体は存続してるのは分かっているのだが雛恵ちゃんの安否は不明だ。恐らく製作者の手抜きだろうか?
「10円玉なんて価値は薄いし‼貴女の存在感も薄い‼だから気にするな!」
「うるさい!さりげなく人を馬鹿にするな‼人が一番気にしてる事を~‼」
『『まぁまぁ、二人とも落ち着いて下さい...』』
私がいろいろ思い出してるうちに二人の喧嘩はヒートアップしていた。そしてそんな二人を清芽ちゃんと姫由良ちゃんが必死に宥めていた。
「確かに私は影薄いけど~、それと10円玉は別なの‼」
(真里愛ちゃんも変わってないな~。)
真里愛ちゃんは藤原北家二条庶流の半家の娘で同じく玲奈お嬢様の取り巻きである雛恵ちゃんとは幼馴染みでゲームでは彼女のツッコミ役担当...なのだが言い変えればそれぐらいしか役目がなく、玲奈お嬢様の取り巻きの中では一番出番が少ない。
しかもその少ない出番でも玲奈お嬢様はおろか他の取り巻きからも自身の存在を忘れられて落ち込む羽目になる残念キャラだ。もちろん、こんな彼女が最終的にどうなったかなんて描かれる筈がない。そんな事もあってかゲームをプレイしていたファンからは空気令嬢というあだ名が付けられて話題になった。
まぁ、この子は出番こそ少なかったがそれが幸いして実は取り巻きのくせに最後までヒロインと居合わせる事はなかったのでヒロインをいじめるシーンは皆無という違う意味では優遇されている。ヒロインとは面識がないという不遇点もあったりするが...
(こんな正反対の二人を取り巻きにしてたなんて...ゲームの玲奈お嬢様は苦労してただろうな。)
私がゲームの玲奈お嬢様を哀れんでいると、
「岡崎さん、制服の左のポケットから何か丸い物体がはみ出してるのが見えるのですがそれは何ですか?」
清芽ちゃんが雛恵ちゃんにこんな質問をしていた。見てみれば確かに不自然な小さくて丸い物体がはみ出してる。これに該当する物に心当たりがありすぎる。まさか...
「えっ⁉どれどれ...ってあっ‼...ごっ..ごめ~ん‼まだ、10円玉捨ててなかったんだった‼許してくださいまし...ハハハッ‼」
『『.........』』
雛恵のその言葉を聞いた私達4人の心は1つになった。同じく4人とも心の中で同じ事を思っていただろう...
『『こんなオチありかよぉぉぉぉぉ‼』』と。




