236.またも強制シャットダウン!
第236話
「玲奈よ、久しぶりだな。」
「えぇ、お久しぶりですね。麻呂さん...」
真里愛ちゃんの家で就寝した私は久しぶりに夢幻世界にて麻呂さんと対面していた。
「あっ!そういえば、前回から結構でしょうか...ずいぶんと間が空いている気がするのですが?いったい、何かあったのですか?」
地味に私が気になっていた事だ。就寝したからといって別に毎回のように夢幻世界に入れるわけではないとはいえ、流石に今回は空白期間が長すぎではなかろうか?
「それがなぁ...閻魔の監視が厳しかったり、私個人の都合があったりで中々、夢幻世界を作れなかったんだ。仕方ないだろう?」
いやいや、ちょっと待って...その上から目線的な言い訳は何?このご先祖様は本当に子孫である私の事を助ける気があるのかな?
「えぇ、そうですねぇ?仕方ないと思っていますよ?今は私に馴れ馴れしく話してますけど、生前は極悪人ですよね?閻魔大王の監視が強くなるのも同然ですからねぇ?えぇ、あなたと違って心優し~い私は決して文句を言いませんよ?」
「うむ...あいにくだが、その顔で心優しいなんて言われても、こちらから見たら全くといっていいほどに説得力はないな...」
今の私がいったい、どんな表情で麻呂さんと会話をしているのかどうかがちょっとだけ気になった。とはいえ、肝心の本題はそこではない...
「それで...今回は私に何の用でしょうか?」
「おぉ、そうだったな...肝心の用件だが、お前にとって決していい話というわけではないという事を前置きしておこう。」
「はい...」
さて、今回の麻呂さんはどんな情報を私にもたらしてくれるんだか...
「高松是政の指示で岩倉家の屋敷を襲おうとした刺客の男達の事は覚えているか?」
「えっ?もちろんです。確か、父からは拘置所にて起訴されて裁判を待つのみと聞かされていますが...」
はて?そいつらがいったい、どうしたというのだろうか?
「...死んでいる。」
「はい?」
「聞こえなかったのか?そいつらは既にこの世にはおらん...殺されてしまったからな。」
「はぁっ!?どういう事ですか!?」
あまりに衝撃的な事実に私は深夜だという事を忘れて思わず、大声をあげてしまった。
(あっ!ごめ...そっか、危ない...ここが夢幻世界で良かったぁ...)
もしも、ここが夢幻世界じゃなくて現実だったなら...私の隣で寝ているであろう、真里愛ちゃんと美依沙ちゃんにとんだ迷惑をかけちゃうところだったよ...
「簡単に言うと口封じというやつだな。高松家を裏で操っていた真の黒幕のだ。」
「なるほど...つまりは中山家の人間による口封じ...ということですか...」
全くふざけやがって...中山家の連中め!あんな事をさせといて都合が悪くなったら切り捨てるというの!?
まぁ...自分達の情報を警察側に漏らされるリスクも考えると当たり前の手段ではあるんだけどね...それに中山家に限らず、ミラピュアでの上位貴族達...特に玲奈お嬢様だって絶対にやっていただろうしねぇ...一概的に責める事ができないのが悔しいところだ。
「いや、違うな。中山家の人間ではない...その更に上の立場にいる人間によるものだ。」
「その更に上...」
一応、それなりに予想はしていた事だ。1年生の時の運動会における奥田家による水筒事件や莱們ちゃんへの脅迫状の一件の黒幕が中山家だとするのは少しばかり無理があるような気がしていた...むしろ、更に別に中山家を操っていた真の黒幕がいたという方が私的には納得がいくのだ。
「ほぅ...その様子からして大体は察していたようだな。」
「はい...明日にでも父に高松是政の安否の確認と今後の身の安全を保証できる施設への移送を依頼するつもりです。」
私やその関係者に危害を加えようとする者達の正体を知るためにも、高松是政という男の存在は私にとって重要だ。彼の命を何としてでも守らなければならない。
しかも、最近の是政は精神的に安定してきているところ...同時に娘である美冬ちゃんとの仲も以前の通りに修復しかけている状況なのだから、なおさらなのだ。美冬ちゃんが更に悲しむ顔なんて見たくはない。
「あいにく、残念ながら手遅れだな...高松是政は助けられない...いや、正しくは助かってはいけないのだ。」
「なっ!?待ってください!それはどういう事ですか!?」
麻呂さんは何を言ってるの?高松是政が助かってはいけないなんていったい、誰が決めたというのかな?
「案ずるな。高松是政は確かに無事では済まないだろうが何も.........」
麻呂さんが何やら答えかけた時だった。
「えっ?あれっ!?なんで...」
気がつくと周りの景色が変わっており、私はベッドで横になっていた。右隣のベッドには気持ちよさそうにスヤスヤと眠る美依沙ちゃんの姿があった。それを見て私は夢幻世界から追い出された事を悟った。
夢幻世界から強制的に追い出された経験は以前にもあったが、麻呂さんにブチギレられて追い出されたあの時とは違って今回は麻呂さんも予期せぬ形で私は追い出されたのだ。
(だって、プライドが高そうな麻呂さんが自分が話している途中に強制シャットダウンするとは思えないもん...)
麻呂さんも予期せぬ形で追い出されたという事は夢幻世界にて何かしらの大きな力が動いている事も考えられるだろう。それが私にとってどのような影響を及ぼすかは分からない...とりあえず、次に麻呂さんに会えた時に詳しく聞くとしようかな?
...そのように考えながら、ふと左隣を見た時に私は異変に気づいた。
(あれっ?真里愛ちゃんがいない?)
真里愛ちゃんが寝ていたであろう、左隣のベッドが空っぽになっていた事に...




