231.無意識に修正力が働いてしまったようです...
第231話
倉聟さんに読むように促された私は早速、ミラピュア攻略ブックの115ページ...【各ルートの裏設定1】と記された部分を隅々まで読み始めた。
(えっ...嘘でしょ!?こんな事って...)
そして、倉聟さんの言っていた言葉の意味をようやく理解する事ができた。それと同時に私は体が震えてしまった...
数多く記されている【各ルートの裏設定1】の内、私が驚いたという部分はここ...
『27.別のルートでは高松家はいったい、どうなったのか?
・・・三条輝心ルート以外の世界線の高松家は初等部時代に玲奈お嬢様によって何かしらの理由で崩壊させられたんだって!高松親子は生死不明なんだとか...全く!ほんとに酷い話だよね...』
その...あまりにも衝撃的な内容に私は目を疑って思わず、二度見してしまったぐらいだ。
そうだ...私は原作知識を知っているという自分だけのアドバンテージがある事に慢心してとんでもない勘違いを犯してしまっていたのだ。
(しまった!やらかした!私が知っていた美冬ちゃんや高松家はあくまで輝心くんルートのもの。他のルートだと話が違ってくるんだった...)
読者の皆様もお分かりになっただろう...
高松美冬という少女がライガオウボスとして立ち塞がり、最終的にヒロインと攻略対象によって破滅させられる...という運命が定められているのは、あくまで輝心くんルートだけの話なのだ。
一方でそれ以外のルートでは美冬ちゃんや高松家はスポットが全く当たらない脇役やモブ以下の扱い(キャラの台詞の中に家の名前がチラッと出る程度)のため、その末路も輝心くんルートのものから大きく変わってしまうのも当然だったのだ。
(ううっ...私とした事が失念していた...!何でこの事に気づけなかったの!?)
よく考えてみれば、ヒロインが登場していない現段階ではどのルートを歩んでいるのかを推測するのは不可能だったのだ。
一瞬、私がミラピュア攻略ブックを持ってさえいれば...と思ってしまったが後になってそんな泣き言を言っても仕方のない話だ。
「これで分かったかい?お嬢さんが無意識にミラピュアの岩倉玲奈というキャラと全く同じ事をしてしまってる事に...」
「はい...」
「お嬢さんがどんなに歴史を変えようとしても、結局は元の通りの歴史になってしまうだけだね。要するに...とある国民的アニメで囁かれているような大阪理論?とかいうやつと似たようなものかもしれん。」
大阪理論...つまりだよ?倉聟さんは私が未来への道筋を変えたとしても...方角が正しい限りは私が断罪されて破滅させられる運命からは絶対に逃れられないと言いたいのだろう...
しかし、私には気になる点があった。
「...未来を絶対に変えられないというのであれば...倉聟さんはなぜ、私にこの事を教えてくれたのですか?」
そう...同じ転生者同士とはいえ、所詮は赤の他人。倉聟さんがわざわざ、私を助ける必要なんてないはず...
ましてや...未来を絶対に変えられないという情報を私に伝えるメリットはあるのだろうか?
「私はねぇ...ミラピュアのゲームの内容自体は知らんが、この攻略ブックを見てお嬢さんが憑依している岩倉玲奈という少女の所業や末路を知ったんだよ。もちろん、その末路に関しては本人の自業自得と言えるものだからね...同情はできんよ。」
「まぁ...そうですよね...」
実際にミラピュアをプレイしていた人達の中では他の悪役ボスには同情の声が挙がっても、玲奈お嬢様に関しては全くと言っていいほどの皆無...いるとすれば、ミラピュアのアンチか逆張りの人間ぐらいだった。
「だがな...悪いのはあくまでゲームの岩倉玲奈であって、今のお嬢さんではないだろう?岩倉玲奈という少女に意図せぬ形で憑依してしまったお嬢さんもある意味、被害者じゃないか。だからね...私はお嬢さんにはできるだけ救いのある未来を歩んでほしいんだよ。」
「倉聟さん...!つまり、私に協力して頂けるのですか!?」
「私にできる範囲の事なら力になってあげなくもないよ。まぁ...いつでも会えるわけではないからそこは注意してほしいが...」
「ありがとうございます!」
私と同じく転生者であり、しかも攻略ブックを所有している倉聟さんが私の味方になってくれる!?これは本当に心強いね...!
(倉聟さんの協力が得られるのであれば、私の破滅回避に大きく前進する...!)
私は今後に大きな期待を持てたのだった...
・・・・・
(やれやれ、あの子を助けるつもりなんてなかったはずなんだけどねぇ...)
玲奈が去った後、倉聟は自分が言った事を思い返していた。
ミラピュアの内容自体は知らなかったが、攻略ブックを見て岩倉玲奈の所業を知ってからは彼女に対する嫌悪感が募っていたはずなのだ。そこで破滅回避を狙う玲奈に辛い現実を突きつけて絶望に陥れてやろうとも考えていたのだ。
それなのに...
『...倉聟さんはなぜ、私にこの事を教えてくれたのですか?』
あの時の玲奈の台詞が...
『あんたは何で...そこまでして私を助けてくれるの?』
前世において...既に亡きかつてのあの子と重なった部分があったのかもしれない...
倉聟はそう考えていた...




