226.真面目忠犬は主に忠誠を尽くす
第226話
『亀寿ユメについて探ってほしいのです。』
玲奈からそう頼まれた時、長寿院敦鳥は未だかつてないほどの喜びに道溢れていた。
(玲奈お姉様!あの時にあんな愚かな真似をした私を許してくれたあなたの恩に報いるつもりです!)
かつては当時の親友だった伊集院日咲と共に憩美を絶対視するあまりに彼女をないがしろにした(と、勝手に解釈した)玲奈に喧嘩を売りにいくという...今になって考えてみれば非常に愚かな真似をしたものだ。
自分はあの後、玲奈の心に秘めた優しさに気づけた事で考えを改める事ができたが、変わる事のできなかった日咲は残念な事にグループディスカッション発表会にて断罪されたあげく...両親まで失い、不登校という最悪な末路を辿ってしまった。
かつての親友の末路に敦鳥自身も思うところはあり、一時は気を落としていた。しかし、それでも玲奈と話す事で立ち直る事ができたのだ。
敦鳥が玲奈に好感情を抱けるようになったのは日咲と決別した事も要因ではあるというのは何たる皮肉だろうか?
(私は玲奈お姉様だけじゃなくて...ある意味、日咲にも救われたのかもしれない...)
時間に余裕ができたら、久しぶりに日咲の家を訪ねてみようなんて考えを頭の隅に浮かべながら、敦鳥は玲奈からの依頼を振り返っていた。
(玲奈お姉様はどうして亀寿さんに興味を持ったんだろう?やっぱり、あの時の一件の彼女の動向が原因なのかな?)
去年、些細な行き違いが原因で自分達の学年の大半が玲奈を敵視する中、亀寿ユメという少女は玲奈の事を敵視せずに事態を客観的に見ていた数少ない人間だ。
敦鳥もそれを前に玲奈に説明した以上、玲奈がユメに興味を持ってもおかしくはない。
(うん、絶対に成功させてみせるんだから!)
敦鳥はやる気に道溢れていた。
その後...
結果的に分かったのはユメは玲奈に対しては好感情を抱いていたが、憩美に対しては快く思っていないという不可解な噂があるのみだった。
これだけ?と思われるかもしれない。それくらい、亀寿ユメという少女に隙が見当たらなかったのだ。
意を決して直接、本人にも話しかけにいった敦鳥だったが、
『そうだね...でも、仮に私が誰にどのような感情を持っていようと長寿院さんには関係ないでしょ?個人の考えに深くつけ込みすぎると思わぬ事態を招くかもよ?』
と、はぐらかされてしまった...
(どうしよ...でも、これで掴めるものは掴めたから良しとするかな?)
敦鳥はひとまず、ポジティブな思考でいる事にしたのだった...