225.メスガキ忠犬は主に忠誠を尽くす
第225話
『今帰仁修羅について探ってほしいのです。』
玲奈からそう頼まれた時、今城美織は心の中で未だかつて感じた事のないような優越感に浸れていた...いや、優越感に支配されたといった方が正しいのかもしれない。
(あぁ!!あの玲奈様が...この私を頼ってくれているだなんて!本当に感激しちゃうよ!)
何せ、美織自身がずっと憧れ...いや、崇拝していた岩倉玲奈という尊き人物から、美織は直々に頼み事をされたのだ。つまりは美織は玲奈から【利用価値がある】とみなされているのも同然なのだ。嬉しくないはずがない。
玲奈から頼まれたのは今帰仁修羅という同級生の女子について探る事だ。
元々は中山家からの刺客の隠れ簑並びにサポート役として、両親や中山家の人間から徹底的な教育を受けてきた美織からしてみれば、それは簡単すぎる仕事だった。
一応、玲奈から彼女の簡単な特徴を聞いてはいる。何でも今帰仁修羅は気弱で内向的な性格なんだとか。
(うん!それなら、仮に怪しい行動をしてたとして...ほんの少し尋問すれば簡単に吐いてくれそうだね!)
玲奈がなぜ、今帰仁修羅という少女を探ってほしいと頼んできたのかは分からないが、玲奈の事だ。きっと、彼女に対して自分では分からない何かしらの違和感を感じたのだろう...と、美織は疑っていない。
(よし!玲奈様の期待に応えられるように何としてでも頑張らないと!そして、更なる信頼を得るんだ!)
美織は成功を確信していた...
しかし、
「あの...今城様ですよね?先程から...何で私を尾行...なされてるのですか?」
(なっ...!嘘でしょ...)
美織の尾行はあっさりと修羅に見破られてしまったのだ。
「ふ~ん、何で私が尾行しているのが分かったのかな?」
美織は内心では焦っていたが、それを悟られまいとあえて余裕のありそうな態度で問い詰めた。
「えっと...分かっちゃうんですよ...私自身が普段から...尾行というものには慣れていますもので...」
修羅は美織の問い詰めに怯えたような様子で返事を返す。だが、美織は修羅に対して違和感を覚えていた。
(ん?私に対して怯えてる...?それにしては呼吸が荒くなってないし、表情は怯えた様子だけど顔色自体には何の変化が見られない...まさか!)
中山家の刺客の隠れ蓑としての教育のために猫を被っていた美織には分かってしまった。そう...修羅も演じている人間なのだと。
「もういいから...」
「えっ?」
「はぁ...あのね?あんたにこれ以上、私の前で気弱で内向的な女の子を演じるのは結構だって言ってるの!」
演じられたままでは探りが進まないと判断した美織は修羅にそう告げた。
「.........なるほど、流石と言うべきなのかもしれない...今城美織。」
「やっぱりか...」
ついに本性をあらわにした修羅の雰囲気が先程までとは比べ物にならないほどに一変したのだ。
思わず、美織の方が身構えてしまうほどにだ...
「だとしても...あなたに知られたところであなたには私達の考えなど理解できないもの...」
「はぁ?何を言って...ひっ!」
言い返そうとした美織だったが、突如として修羅から向けられた謎の殺気に反応してしまい、続きの言葉が出なかった。
「これ以上、私を探るのはやめておいた方が良いと...まぁ、あなたに命すらも投げ出す覚悟があるというのなら...ご自由に。」
そう言い残すと、修羅はその場を立ち去っていった。
(何なの?アイツ...あの殺気はとても素人には出せるようなものじゃない!!)
一方の美織は修羅からの殺気に体が震えてしまい、その跡を追う事はできなかった...




