220.些細な変化が吉と出た
第220話
高松美冬は岩倉家の屋敷を出て、帰路に着こうとしていた。
本来ならば、いつも通りに自宅に帰るべきなのだがそうはいかない。今回の一件で唯一の家族である父を失った以上は今まで通りの生活を送る事などできない。よって高松一族の話し合いの結果、美冬は分家の人間の養女として引き取られる事になった。今はその分家の人間が待つ家へと向かっているところだ。
その人間は美冬を温かく迎え入れてくれたし、おまけに家自体がそこまで遠くはないために転校せずにすむ...まさに美冬にとって願ってもない話だったのだ。
(陽菜ちゃん...あなたはそれでも私を受け入れてくれたし、改めてお友達になろうって言ってくれたんだよね...)
岩倉家の屋敷に謝罪に訪れた時...正直、美冬は陽菜を裏切った事を糾弾されて多少の罵倒や暴力を喰らうだろうとばかり思っていた。
でも、そんな事はなかった...むしろ、逆に陽菜と改めてお友達になってほしいとまで頼まれてしまったぐらいだった。
(莱們ちゃんといい、陽菜ちゃんまで...私って本当にお友達に恵まれていたんだ...)
そう思いながら、美冬は自らの父によってグループの皆が捕まってしまった時の事を思い出していた。
・・・・・
「まさか、嘘でしょ...そんな事があっただなんて...」
「美冬ちゃんが...」
美冬はこの時にグループメンバー全員に今回の計画を実行するに至った自らの過去を打ち明けていた。
「じゃあ、美冬ちゃんは...」
「私達と仲良くなったのも...真っ赤な嘘だったんですか...」
これには過去の因縁の当事者の家の娘の莱們やそのために近づいた陽菜はもちろんのこと、萌留や滓閔にとっても衝撃的だったようで驚きを隠せていなかった。
「えぇ、そうですよ!最初から...全部偽りだったんですよ!私はこの日のために皆となかよくしていたんです!ママとお姉ちゃんの仇をとるための!」
こうなってしまった以上、失うものがないも同然の美冬は本心を全てぶちまけていた。
この後の反応は分かっている。萌留や滓閔はともかく、莱們や陽菜は自分を騙した美冬を恨んで罵倒し、酷く罵る事だろう...
だけど、もうどうでもいい。どっちにしろ、自分達が元通りの関係に戻るのはとても無理だと確信していたからだ。
「美冬!ごめんなさい!」
「美冬ちゃん!本当にごめん!」
「莱們ちゃん!?陽菜ちゃん!?」
だが、そんな美冬の予想は瞬く間に裏切られのだ。
「以前の私なら、そんなもの知った事かと逆恨みしていたでしょうね...でも、今は違うわ。私の家の人間にそんな屑がいただなんて...恥さらしも良いところよ!これじゃ、私がこんな目に遭っても文句は言えないわ!美冬...悔しかったわよね?母と姉を失ったんだもの。それなのに許してほしいなんて図々しい事は言わないわ!ただ、謝らせてほしいの!」
「私もだよ...もっと早く気づいて私なりに高松家の力になってあげていれば良かった...美冬ちゃん!本当にごめんね!!」
「私も!何かの力になってあげれたら良かった!」
「美冬ちゃんの気持ちに気づけなかったのが一生の不覚です~!」
「莱們ちゃん...陽菜ちゃん...萌留ちゃん...滓閔ちゃん...」
怒りのままに罵倒したり、罵ってくれた方がまだ良かった。そういった反応ならば、美冬は心を鬼にして父が陽菜や莱們を手にかけるのを黙認していたのかもしれない。
しかし、実際には陽菜も莱們も...そして、萌留や滓閔までもが美冬の事を一切、責める事はなかった。こんな理不尽な目に遭ったのにも関わらずだ。
やはり、玲奈が前世を思い出した事や陽菜というミラピュアには登場しなかったイレギュラーの存在が莱們の人間性に多少の変化をもたらしていたのかもしれない。もしも、莱們がミラピュアの時のままの性格だったら、萌留や滓閔と仲良くなる事もなかっただろう。
いずれにせよ、この返事を聞いた時点で美冬は決断していた。
「えっ?美冬ちゃん?」
「決めました!皆さんは死なせない!私の大切なお友達として!陽菜ちゃん、あなただけでも逃げてください!」
そう言うと、美冬は陽菜を縛っていたロープをほどき始めた。
「でもっ!莱們ちゃんや萌留ちゃんや滓閔ちゃんを見捨てて私だけ、逃げるなんてできないよ!」
「一度に全員が脱走すれば目立って、再び捕まりかねません。なので、家柄的に一番頼れそうな陽菜ちゃんに逃げてもらいます!この事態を至急、岩倉家の人に知らせてください!」
「うん、分かった!絶対に皆を助けるからね!」
こうして、考えを改めた美冬の協力で陽菜が脱走した事で今回の事態が早々に岩倉家側に伝わり、結果として1人の犠牲者も出さずに済んだのだった...




