219.和解と完全なる友情への道
第219話
そんな感じで私をはじめとする岩倉家の人間が感動の家族の再会タイムに入ってしばらく経った頃だった。
父がこれまでの嬉しそうな表情を一変させて急に真面目な表情で私達に話しかけたのだ。
「さて...玲奈に陽菜、もうすぐすれば君達に会いたいという子がうちに来るはずだ。特に陽菜にとっては大切な相手だろう...玄関に行って待ってあげなさい。」
「お父様...」
どこか、怒りを堪えているような父の様子で私はその相手が誰の事なのかが大体は分かってしまった。
「お父様...まさか、」
「私は子ども同士の会話に親が入り込む余地はないと思っている。だから、ゆっくり話してきなさい。」
「はい!お父様!」
その子のせいで自分の大切な娘達が危険な目に遭ったのだ。怒りを覚えない方が不思議だろう。しかし、その怒りを大人に逆らえなかった子ども相手にぶつけないだけ、岩倉常政という男は高松是政よりも遥かに人間性があり、理想の父と言えるのかもしれない。
私はその事に一安心していた。
「陽菜、行きましょう。」
「うん!」
こうして、私は陽菜を引き連れて玄関に向かうとその子が到着するまで待っておく事にした。
・・・・・
その子が岩倉家の屋敷に到着したのはその直後の事だった。
「待ってたよ、美冬ちゃん...」
「玲奈様...陽菜ちゃん...」
やって来たのは美冬ちゃんだった。彼女は当たり前だが怯えているようで、同時に恐怖と申し訳なさと悲しみの感情が入り混じっている...少なくとも私はそう感じた。
「本当に...本当に申し訳ありませんでした!私はどんな罰でも受ける覚悟です!その代わり、父の命だけでもお助けください!」
「美冬ちゃん...」
美冬ちゃんは必死に私と陽菜に頭を下げてこれまでの事について謝罪し、許しを乞うていた。その様子から本気で自らの行いを悔いているのは明白だろう。
それに私は既に心を決めていたんだ...
「美冬ちゃん、ひとまずは落ち着いて聞いてくださいね?まず、あなたの父...高松是政の処遇に関しましては話し合いの結果、警察に任せる事にしました。よって、私が口を出す事はありません。」
「そんな...」
「ただし、人を殺めたわけではないのと境遇と犯行動機に同情の余地は十分にありますので数年かそこらで再び会えるでしょう。」
「本当ですか?」
実際に仮に高松是政が刑事裁判を受ける事になったとしても、死刑や無期懲役といった重い刑罰にはならないだろうと私は確信している。
「そして、美冬ちゃん...私からあなたに聞きたい事があるのですよ。」
「はっ...はい!何でもお聞きください!」
いい返事!では、お言葉に甘えて遠慮なく聞かせてもらうね?
「陽菜や莱們ちゃんや萌留ちゃんや滓閔ちゃんと改めて...本当のお友達として仲良くしてもらう事は可能でしょうか?」
「えっ!?」
「どうでしょうか?私としては全然構わないのですが...」
私からの問いに当たり前だけど美冬ちゃんは動揺していた。
いやいや!だってだよ?陽菜や他の皆を騙すような事をしたのにも関わらず、咎められるどころか逆に本当のお友達になってほしいと陽菜の義姉に頼まれてるんだもの...
「その...どうしてですか...」
「えっ?」
「ありませんよ...どうしてなのですか!?だって...だって!私は今までずっと陽菜ちゃんや莱們ちゃんの優しさを利用してたんですよ!?おまけに父に従って陽菜ちゃんと莱們ちゃんの命までもを奪いかけたんです!そんな私が今さら皆と本当のお友達になれるわけがありません!!それなのに...ううっ!」
「美冬ちゃん...」
美冬ちゃんは泣きじゃくりながら、自らの今までの行いに対する後悔を口にしていた。
私が何とかして美冬ちゃんを落ち着かせようとした時だった。
「美冬ちゃん!そんな事ないよ!!!」
「陽菜ちゃ...きゃっ!」
これまで黙っていた陽菜が美冬ちゃんを抱き締めると同時に彼女の頭を撫でて落ち着かせた。
「あのね...あの時、美冬ちゃんは私を逃がしてくれたよね?という事はそれぐらい...美冬ちゃんの中で私は大切な存在になったんだと思うの!そして、それは私だって一緒!私から見たら美冬ちゃんは命の恩人だもの!玲奈お姉ちゃんが言ってくれた通りに私も改めて美冬ちゃんとお友達になりたい!ダメかな?」
「陽菜ちゃん...!ううっ!」
きっと今が美冬ちゃんの表情に今までの偽りの笑顔とは違う...本当の笑顔が微かに戻った瞬間なのだと、私は想像してしまった。




