214.岩倉家を舐めてはいけない
第214話
そして、美織が玲奈と陽菜と会話をしていた時と同じ頃、岩倉家の屋敷付近では...
「ちっ!おいおい...岩倉家の小娘達、ちっとも帰ってこねぇじゃねぇかよぉ!」
「おい、文句を言うな。おとなしく待ってろ。」
「俺達がどれだけ待たされてると思ってんだ?」
数人のガラの悪い男達の姿があった。彼らのその表情と挙動不審さから、岩倉家の屋敷に来ている目的は言うまでもなく...普通の用事ではないのは明らかだろう。
(それにしても遅いな...もしかして、俺達が先回りしているのを悟られたか?いくら小学生とはいえ、あいつらは貴族家の令嬢だからな...余計な知恵を持っててもおかしくはない...)
結論から言うと先回りされていると考えて岩倉家の屋敷には避難するのはやめておくという玲奈の判断は正しかったのだ。
なぜなら、実際に彼らは高松是政によって金で雇われる形で岩倉家の屋敷に送り込まれた追っ手だったのだから...
「しかしよぉ?何で高松家の旦那は急に岩倉家の小娘を狙うなんて言い出したんだ?今までは三条家への復讐にしか目がいってないはずだったのによぉ...」
「いやいや!そんなの知るかよ...俺達はただの一般人なんだぞ?」
「そうだったな...」
高松家に雇われた人間といっても彼らは一般人に過ぎない。爵位をもらえるレベルの貴族の家なら優秀な専属のSPがいる場合が大半だが、肝心の当主が妻と長女を失ったショックで会社経営から遠のいて生活に困窮するようになった状況の子爵家ではそうもいかないのだ。
よって、彼らが貴族の家の裏の事情までは到底、知る事は叶わなかった。
「はぁ...俺、もう帰りたいぜ...」
「おい、ふざけんな!一人でもサボったら報酬がもらえないんだぞ!?勝手な真似をするんじゃねぇ!いいな!?」
「はいはい...」
こんな形で男達が渋々といった感じで岩倉家の屋敷の張り込みを続けていた時だった。
「うっ!...」
「なっ!?どうし...」
突如として声をあげる間もなく、男達が次々にバタバタと倒れはじめた。そして、最終的にはその場に立っている者は一人もいなくなっていた。
「常政様、任務完了です...」
「うむ、ご苦労だったね。しかし、その麻酔銃は本当によく効くじゃないか。」
「恐れ入ります。」
「それにしても...まさか、本当にうちの娘達に危害を加えようとするとはね...」
既に関係者からの報告にて高松家の動きは岩倉家の当主である常政には筒抜けだった。岩倉家の情報網を侮れないものだ。
追っ手の男達に麻酔銃を撃ったのは岩倉家専属のSPだった。岩倉家専属のSPは岩倉家の人間に危機が迫った時に備えて如何なる時でも対応できるように日々、訓練を重ねている。
はっきり言って、所詮は金で雇われているに過ぎない高松家の追っ手達とは格が断然に違うのだ。
「全く...岩倉家を舐めすぎだ...よし、ひとまずこいつらからは情報を色々と聞き出すとして...それよりも玲奈と陽菜とは連絡は取れているのかい?」
「はい、運転手からの情報によりますと...玲奈様と陽菜様は今城家に避難しているそうです。」
「なるほど、今城家か...」
岩倉家と今城家は特に接点はないどころか、逆に敵対しててもおかしくないのだが玲奈の人脈によるものだろうと常政は自己解釈した。
(まぁ、玲奈の事だ...何かしらの方法で繋がりを持ったんだろう...)
そのぐらい、常政からみて実の娘に対する信頼は厚かった。
「とりあえず、こいつらには全て吐いてもらわないとな...頼んだぞ。」
「はい、かしこまりました。」
こうして、岩倉家に送り込まれた刺客達は呆気なく捕まったのだった...




