213.それは心酔か崇拝か
第213話
「ふふっ!さて、岩倉陽菜様はこのようにお考えですが...玲奈様の方はどのようなお考えでしょうか?」
美織ちゃんは半ば、面白がっているかのような口振りで私にも問いかける。
今の彼女には初対面時の礼儀正しい少女という面影がとっくに消え失せているようだ。
「私の推測だと美織ちゃん、あなたは中山家からの刺客.........ではありませんね?」
「なるほど~?ですが、ちょっと待ってくれませんか?だとするなら私が中山家の計画を知っている時点で岩倉玲奈様とは全くの無関係の令嬢というのは流石に矛盾するのではないでしょうかね~?」
「そうですね...なので、あなたの正体...それは中山家の本命の刺客の隠れ蓑的なもので私のミスリードを誘うための存在なのではないのでしょうか?」
賢い人間なら分かるだろうが中山家の刺客がそのまま、今城家の娘というのは明らかにあからさま過ぎる。
今城家が中山家の分家という家柄である以上、中山家の刺客として真っ先に疑いの目を向けられてしまうのは必然だからだ。
(いくら、中山家といえども...そこまでバカじゃないもんね...)
中山家の標的が貴族同士の背後関係に疎い一般生徒だったら、上手くいくかもしれないけど...今回の中山家の標的は他でもない岩倉公爵家の令嬢である私なのだ。
当然、私が中山家と今城家の関係ぐらいには気づくだろうと中山家側も察しているはずだ。
だったら、別に刺客を用意して美織ちゃんには刺客の隠れ蓑として暗躍してもらった方が中山家から見ても遥かに都合が良いものだろう。
よって、私は今城美織という少女は中山家の刺客ではないと判断したわけだ。
「はぁ...降参ですね。えぇ、そうですよ...岩倉玲奈様がおっしゃる通りです...私は中山家より、刺客の子の隠れ蓑となって暗躍するようにという密命を受けています。」
さすがの美織ちゃんも私を相手にしてこれ以上の言い逃れは難しいと判断したのだろうか、あっさりと自白してくれた。
だが、私には疑問点が残っていた。
「美織ちゃん、あなたは何で私に自らの正体を明かすような真似をされたのですか?」
「あっ、やっぱり気になっちゃいますよね~?」
そう...中山家の刺客の隠れ蓑として働く以上は私と敵対関係なのは明らか。それなのになぜ、美織ちゃんが私と接触して自らの正体を明かしたのだろうか?
「ズバリですね~?私は岩倉玲奈様が大好きなんですよ~!あっ!好きどころじゃないかも...あなたには全生徒が平伏すべきだと思いますし、私も一生、あなたに身も心も差し出してお仕えしたいというか...あははっ!」
今の内容を聞いただけで私は確信に至った。
(この子...色々と重いじゃん...)
美織ちゃんが私に向けているのは純粋な好意ではなく、まるで伊集院日咲が陽菜に向けていたような崇拝...もしくは、心酔といってもいいのかもしれない。
とにかく、そこら辺の普通の感情でない事だけは明らかだった。
「つまり、美織ちゃんは私が大好きだから中山家を裏切ってまで私に協力してくれるという事ですか?」
「そんなところですね~!私としては玲奈様の側にいられるのであれば、中山家や今城家がどうなろうが知った事ではありませんよ!」
私のためだけに家を捨てる?思わず、正気か?と問いたくなるが嘘を言っているようにも見えない。
「ところで...今の喋り方が美織ちゃんの素なのでしょうか?」
「そうですよ~!今までのは正直、お偉いさんの前で猫を被るための仮面ですから~!」
う~ん、妙に礼儀正しいから多少の違和感を感じてはいたけどやっぱりか...如何にも将来はギャルになりそうなこっちの口調こそが美織ちゃんの本来の性格というのを表しているのだろう。
「ねぇ、私からも聞かせて?今城美織、あなたはどうして玲奈お姉ちゃんを好きになったのかな?」
すると、今まで私達の会話に入れなかった陽菜が美織ちゃんに問いかける。
「ふふっ!いいですけど、ちょっと長くなりますので最後まで聞いてくださいね~!」
そう言うと美織ちゃんは私にこのような感情を向けるようになった理由を語り始めたのだった...




