212.今城美織という少女の本質
第212話
「なるほど...中々、広いお家ですね。」
「う~ん、岩倉玲奈様にそれを言われると何か皮肉に聞こえちゃいますね...」
「あっ、すみません...」
確かに今城家は子爵家である事から、家の広さは一般家庭から見れば広いだろうが、貴族視点から見れば小さい方なのだ。それを【広い】と表現するのは皮肉でしかないし、失礼過ぎたね...
(私は前世で一般人だから、庶民的すぎてこういうところで感覚が鈍っちゃってるんだよね...)
そろそろ、お嬢様としての常識に完全に慣れておくべきだと私は密かに思った。
「いえいえ!構いませんよ!それより、どうぞ!我が家だと思ってくつろいでくださいね!」
あの後、私達の家の車はすぐにスーパーマーケットの駐車場を出て美織ちゃんの家の車を追跡し、無事に今城家に到着...
そして、今...美織ちゃんの家にお邪魔しようとしていたところだった。
「ねぇ、あなた...美織ちゃんだっけ?玲奈お姉ちゃんから聞いたけど、あなたは中山家の何を知っているの?」
陽菜が美織ちゃんを少し威圧するように問いかける。実は美織ちゃんの車を追跡中の車内にて私は陽菜にも事情を説明していたのだ。
よって、美織ちゃんには悪いが陽菜が美織ちゃんという人物に多少の警戒心を抱くのも仕方がないと思っている。
「それは今から説明しますよ。あっ!立ち話もなんですから、お座りください!ついでに岩倉姉妹のお二人に飲み物をお出ししますが何がよろしいでしょうか?」
「わざわざ、ありがとうございます。そうですね...では、お言葉に甘えまして...紅茶を頼めますか?」
「私にはオレンジジュースでも出しといて...」
「かしこまりました!紅茶とオレンジジュースですね?しばらくお待ち下さい!!」
私達の注文を聞き終わると、美織ちゃんはまるでレストランの店員のような台詞を言ってその場を離れていった。
(てっきり、飲み物ぐらいは使用人に運ばせると思ってたんだけどな...)
美織ちゃん自身の性格なのか、それとも単に諸事情で人手が足りないからなのか...まぁ、別にどっちでもいいんだけど...
「はい、お待たせしました!紅茶とオレンジジュースです!」
「わざわざ、ありがとうございます。」
しばらくして戻ってきた美織ちゃんから私と陽菜はそれぞれが注文した紅茶とオレンジジュースを受け取って、じっくりとその美味さを味わう。
「美味し~!」
「中々、良い味ですね。」
「お二人に満足してもらえたようで、こちらとしても本当に良かったです。」
おっと...あまりの紅茶の美味さに思わず、本題を忘れてしまうところだった。当たり前だが、私と陽菜は紅茶とオレンジジュースのためだけに今城家にお邪魔したわけではないのだ。
「さて、美織ちゃん?そろそろ本題に入って頂けませんか?」
「もちろんです。少し長くなるかもしれませんが最後まで聞いてくださいね?」
私と陽菜にそう念押しすると、美織ちゃんは話を始めた。
「もちろん、岩倉玲奈様はご存知だろうと思いますが、私の生まれた今城家は中山家の遠い支流...または、分家にあたります。その中山家があなたに何をしようとしているのかも薄々は分かっているのではないでしょうか?」
「はい、今城家と中山家の関係性については当然、知っています。それと...中山家が岩倉家を逆恨みしたあげく、私を抹殺すべく刺客を送り込んだという話も...」
「なるほど~?逆恨みと...そちらではそのように聞いているのですね?えぇ、そうですよ。あなたのおっしゃる通りに刺客はあなたを社会的に抹殺...あわよくば命を奪う事も狙ってます。」
私が中山家の策を既に知っている事を話しても、美織ちゃんの表情に動揺は全く見られない...というか、逆に面白そうなものを見たような表情になっているのが不気味だ。
「で?岩倉姉妹のお二人はその刺客が私だと考えているのですか?」
「いや、そうなんじゃないの!?今城家は中山家と関係があって、中山家の事情も知らされてるみたいだし...逆に違うの!?」
まぁ、普通に考えたら陽菜の思考も一理あるだろう...
陽菜の発言と同時に私も美織ちゃんの問いの答えを自然に脳内にて編み出していた...




