211.思わぬ救いの手?
第211話
...と、そんな感じで私がどこに避難しようか考えている最中ではあるがとりあえず、食料と水くらいは補充しておこうという考えにも至り、今は偶然にも近くにあったスーパーマーケッで従者に指示して買い出しに行かせているところだ。
そんな中だ...
「ねぇ、玲奈お姉ちゃん!あの女の子...さっきから、私達の車を見てるみたいだけど...」
「ん?どこです?」
「ほらっ!あの子だよ!左の方にいるあの子!」
「どれどれ...」
私が興味本位で陽菜が指を指した先を見てみる...すると、陽菜が言っていた女の子の正体が判明した。
「ん...?今城美織ちゃん!?」
「えっ?ひょっとして、玲奈お姉ちゃんって...あの子と知り合いなの?」
知り合いもなにも、私の視線の先にいた女の子は中山家の刺客候補の一人である1年生の今城美織ちゃんではないか!
そんな感じで私が驚きを隠せないでいると美織ちゃんの方も私達が自分に気づいていると察したらしく、ゆっくりと私達の乗る車に近づいてきて...
「こんにちは!岩倉玲奈様と...そちらは妹様の岩倉陽菜様ですよね!入学直後にお会いした今城美織です!まさか、公爵令嬢のお二人とあろう方とこのような庶民的な...いいえ、普通のスーパーマーケットで会えるなどと...夢にも思っていませんでした!」
相変わらず、礼儀正しい...というか、私が公爵令嬢の名前を使って好き勝手に振る舞うのを嫌いと知っているのか、私に気を遣ってサラッとスーパーマーケットの言い方を変えてくる辺り、とっさの判断力にも優れている...とでも言うべきだろうか?
「これはこれは...美織ちゃん。まさか、あなたとこんなところで会うとは思いませんでしたよ。何か用でもあったのですか?」
「はい、家の事情でいろいろとありまして...あっ!ところで、岩倉玲奈様と岩倉陽菜様はどのような理由でこのスーパーマーケットに立ち寄られたのでしょうか?」
「あっ、それはですね...」
美織ちゃんが敵なのか味方なのかが判明していない以上、現時点では馬鹿正直に【高松家の当主から命を狙われていて逃げている最中】だと説明するのはさすがにリスクがあるだろう...
もしも、美織ちゃんや今城家が高松家と繋がっていた場合は私が高松家の計画に既に勘づいていると知らせてしまっているようなものだからだ...
「その、実はですね...ひょんな事から家族と喧嘩してしまい、陽菜と一緒に家出の最中なのです!」
「えっ?玲奈お姉ちゃん?喧嘩って...」
咄嗟に私の口から出た言い訳がこれだった。少し無理がある気もするが、こうなった以上はこの言い訳で美織ちゃんを誤魔化すしかないね...
「そうですよね?陽菜!?」
「あっ、うん!そうなの~!だから、家出先を探してて...その途中に寄ったのがこのスーパーマーケットってわけ。」
陽菜は最初は戸惑っていたが、岩倉家の娘として育てられてきた影響で頭の方も格段に成長してきたらしく、私の話に乗ってくれた。
「なるほど~?そうでしたか。でしたら、提案があります!私のお家に来ませんか?」
「美織ちゃんの家に?」
おいおい...確かに美織ちゃんが私と接触があるのを知っているのは清芽ちゃんだけだから、私達の隠れ場所がバレる可能性自体は低くなるというメリットはあるけど...それ以上にデメリットが多い!!
「ねぇ、玲奈お姉ちゃん?この子...信用できるの?私、ちょっと不安なんだけど...」
「陽菜...そうですね。ここは辞退しましょう。」
そうだね...陽菜もこう言ってる事だし、ここは丁重に断っておこう...
そう思っていた時だ。美織ちゃんが瞬きする間に私に近づくと耳元でそっと囁いた。
「ついでに...前から思っていましたが、岩倉玲奈様にお伝えしなければならない事もありますからね...中山家の事で。」
「なっ!?」
今の発言でハッキリしたね。美織ちゃんは中山家の刺客だけど正々堂々と正面から宣戦布告してくるタイプの子...もしくは、強引に中山家の指示を受けているだけで私に危害を加えるつもりはない子のどちらかになる。
少なくとも高松是政が美織ちゃんや今城家と組んでる可能性はグッと低くなったと言えるだろう。
仮に美織ちゃんが今回の件で高松家と組んでいるのなら、私の苦し紛れの嘘に気づかなかったり、【中山家】という私を警戒させるようなワードを口にしたりはしないはずだからだ。
「分かりました。お言葉に甘えてあなたの家に匿わさせてもらいましょう...」
「えっ?玲奈お姉ちゃん!?さっきまでと違うよ!?」
私がいきなり、態度を変えたものだから陽菜がびっくりしている...
「陽菜、詳しい事情は後で説明します。なので、ここは私に従ってください。彼女は信用できますから...」
「へぇ~、信用ねぇ...絶対に納得のいく説明してよね...」
正直、美織ちゃんを完全に信用したわけではないが...ひとまず、この場はそうでも言っておかないと警戒心が高くなった陽菜は絶対に納得しないだろうからね...
「では、私はスーパーマーケットを出ますので私の家の車についていくようにそちらの運転手にもお伝えください!」
「えぇ、分かりました。」
こうして、私と陽菜は意外な形で今城家へ避難する事となった...




