208.ライガオウボス、高松美冬とは?
第208話
車内にて、私は泣き止んで落ち着いてきた陽菜から全ての事情を聞き出した。
「なるほど、三条家と高松家の間でそのような事が起こっていたなんて...」
「うん、私も美冬ちゃんのお父さんから聞いた時には本当に驚いたの...だけど、莱們ちゃんは私以上に驚いてて...」
いや、莱們ちゃん以上に私自身の方が驚いているに違いない。
ミラピュアの耀心くんルートにて確かに高松美冬という少女がライガオウボスとして君臨したのは事実だが、私はあくまでゲームでの彼女は耀心くんが好きな為に耀心くんと仲が良いヒロインを一方的に目の敵にしている典型的な悪役令嬢タイプのキャラだとばかり思っていた。
ところが、陽菜から事情を聞いてその考えは一瞬で覆させられた。
高松美冬が親から指示を受け、三条家を破滅するために動いていたとなるとミラピュアでの彼女も内心では耀心くんの事を愛してなどおらず、耀心くんの婚約者とならなければいけなかったのは彼を自分達の復讐に利用するためだったとしたら?
ヒロインを目の敵にしていたのも耀心くんに対する好意からではなく、単にヒロインと耀心くんが結ばれるのは自分達の復讐の障害となりかねないと判断していたのではないか!?
(そうなると...色々と辻褄が合っちゃうんだよね...)
私の知ってる限り...メインストーリーではもちろん、サイドストーリーでも美冬ちゃんの詳しい経歴(主に家族仲や耀心くんを好きになった経緯)などは全く明かされていなかった。同じくライガオウボスを務める事が多い玲奈お嬢様の経歴はこれほどか!?という程に情報が明かされているというのに...
あまりにも情報量が少ないが為に一部のファン達の間では、
『美冬の過去は設定されていたものの、その設定があまりにも重すぎると判断されて没になったのでは!?』
『単に美冬自身が耀心くんルートにおける、玲奈お嬢様の替え玉役だったが為にそこまで詳しい設定が考えられなかっただけでは!?』
『高松美冬の経歴はミラピュア2(実際に続編が発売予定だった)にて明かされるんだ!きっと、そうに違いない!』
などと、美冬ちゃんについてさまざまな憶測が立てられていたくらいだったのだ。
(まぁ、この子はボス達の中では玲奈お嬢様に次いで話題になっていたくらいだもんね...悪い意味でだけど。)
ちなみに美冬ちゃんは一応、他のルートにも登場はするのだがいずれも物語の本筋には関わらない。たとえば、兼光ルートの美冬ちゃんなんてそこら辺のモブ令嬢同然の立場なのだ。よって、本来なら耀心くんルートに登場していた悪役令嬢の一人でしかないはずなのだ。
それでも、彼女が悪目立ちしてしまってるのはさっきも言ったように耀心くんルートにおける玲奈お嬢様の替え玉役に近い存在だった点、玲奈お嬢様以上に傲慢な人物であった点、最終的な破滅があまりにも残酷だったという点だろうか?
何ていったって、ミラピュアでの彼女の末路は親は抹殺され、自身は三条家によって全財産を奪われたあげく、裏社会の人間に売られて奴隷のようにこきつかわれ時には性欲のはけ口にされるという...ある意味、死ぬ事よりも悲惨なものだったのだ。幸いにも言葉による説明だけで描写自体はなかったのがせめてもの救いだろうか...
...と、ここまでがミラピュアでの美冬ちゃんなのだが、この世界では既に美冬ちゃんには変化が起きているのに私は気づいていた。
「陽菜?さっき、美冬ちゃんがあなたを逃がしたと言いましたがそれは本当なのですか?」
「うん...美冬ちゃんはお父さんの計画に加わってはいたけど、内心では私や莱們ちゃんを傷つけたくないって思ってたらしくて...一番頼れそうな私を何とか逃がしてくれたんだよ!」
「そうでしたか...」
なるほどね...この世界の美冬ちゃんは莱們ちゃんや三条家に憎悪をそこまで抱いているというわけではなさそうだね...
恐らくミラピュアには登場しないため、本来なら出会うはずもなかったであろう、陽菜というイレギュラーな存在と仲良くなれた事からだろうか?または、私の莱們ちゃんの性格が変わった事も影響しているのだろうか?
どっちにしろ、美冬ちゃんの心境にも何かしらの変化が現れた事は私から見ても悪くはない展開だ。
今回の危機...絶対に乗り越えてみせる!




