206.無表情の脅迫は恐怖でしかない...
第206話
2年生組達とゲームセンターで遊んでいてしばらくたった頃...
「うっ...」
「玲奈さん?どうしたんですか?」
私が急に変な声を出しちゃったものだから、一番近くにいた憩美ちゃんが心配した様子で私に声をかけてきた。
「あっ、あの...少しばかりお化粧室に行ってきますね!」
「あぁ~、そういうことでしたか!はい、分かりました!他の皆にも私から伝えておきますね。」
「すみません...すぐに戻りますから!」
皆とゲームセンターで楽しむ内にリラックスし過ぎて緊張が緩んだのが原因だろうか?突然の尿意を催した私は憩美ちゃんにトイレに行きたい旨を伝えると皆の元を離れ、トイレへと向かった。
(ふぅ...今のところは皆に特に変わった様子はなしだね...できれば、このまま無事に1日が終わってくれると非常にありがたいんだけどな~!)
そんな事を思いながら、無事に用を済ませた私がトイレを出て、急いで皆の元へと戻ろうとした時だった。
「あれれっ?岩倉様じゃないっすか~!こんなところで会えるなんて奇遇っすね~!」
(なっ...!あなたは...)
私の事を知っていて尚且つ、語尾が特徴的な男子ときたら...私に心当たりがある人物は一人しかいない。
「えっと...宇土丸くん?」
「そうっす!以前、お会いした宇土丸銀二っす!」
宇土丸銀二くん...未だに謎が多い新入生であり、中山家からの刺客候補の一人でもある男子の姿があった。しかも、おまけに彼の隣には黒い服にサングラスをかけた大柄の男の姿まである。
「まさか、宇土丸くんもこのゲームセンターにいたなんて...偶然ですね。」
「自分もまさか、こんな庶民的なゲームセンターで岩倉様と会えるなんて思ってなかったっすよ!」
「いえいえ、私もこう見えてゲームセンターは好きなんですよ?今日だって2年生達と一緒に遊びに来たぐらいですから。」
だからこそ、私はこうして話している最中にも彼を警戒しているのだ。
「そう言う宇土丸くんは何の用でこのゲームセンターに?」
私がその質問をすると同時に宇土丸くんの隣にいた男から急に殺気が溢れているのを感じた。その一方で男の顔は憤怒などではなく、全くの無表情なのがさらに不気味だ...
「こらこらっ!岩倉様相手にいきなり、殺気出したらアカンって!やめるっす!」
「.........」
宇土丸くんも男から溢れ出る私に対する殺気を感じたのか、慌てて止めに入った。あいにく、私にはこの男に恨まれるような事をした覚えは全くないんだけどな~?
「すみませんっす!コイツは自分の付き人なんすけど、訳あって急に相手を威圧したりする事があるんす...けど、根はいい奴なんで誤解しないでくださいっす!」
宇土丸くんがそう言うとその男が私に近づいてきて無表情のまま、私に話しかける。
「我が名はアウグスティ小西。別に覚えなくともいい...あと、己の命惜しくば...我が主の行動を深くは詮索するな...」
「はっ...はぁ...」
いやいや!こんな物騒な台詞を無表情で言ってきたもんだから、私はその男...アウグスティ小西さんに対して内心では震えが止まらなかったよ...
「構わないっすよ!そのぐらい!自分が今日、ここに来たのは視察のためっす!」
「視察...ですか?」
「はい!このゲームセンターはうちの父の会社が作ったんすから!」
「なるほど...」
確かにそれなら、宇土丸くんが会社の御曹司として視察する理由にもなるね...
「それと、岩倉様に......」
宇土丸くんが更に何かを言いかけた時だった。
「あつ、いたっ!玲奈お姉ちゃん!」
(ん?陽菜の声なんだけど...)
この場には絶対にいないはずの陽菜が私を呼ぶ声がした。人違いだよね?と思った私が声をした方に視線を向けると...
「玲奈お姉ちゃん!無事だったんだね!玲奈お姉ちゃん!!」
陽菜がギュっと私に抱きついてきた。しかも、いつも以上に強い力で...
「誰かと思ったら、岩倉陽菜様じゃないっすか~!丁度良かったす!是非とも......」
「うるさい!今はあんたなんかに用はないの!!!」
「すみませんっす...」
陽菜に一喝された宇土丸くんはガックリと肩を落とし、それを見たアウグスティ小西さんが今度は陽菜に殺気を向ける。
「無事で良かったよぉ...」
「陽菜?」
しかし、陽菜はその殺気にも気づかない様子で私に抱きつき続ける。
やれやれ、陽菜は大物だな...なんて、私の呑気な思考は次の瞬間には打ち崩される。
だって、陽菜の目には溢れんばかりの涙があったからだ...




