201.一抹の不安は楽しみより勝る
第201話
「あっ!玲奈ちゃんが一番乗りでしたか!!待たせるような形になってしまって本当にすみません!」
「いえいえ、気にしないで下さい。私は単にゴールデンウィークで皆と遊べる日が楽しみだっただけですから...清芽ちゃんだって同じでしょ?」
おや?ひょっとして家格だけで言えば一番上の私が真っ先に集合場所の大型の商業施設の入口付近に到着してしまっていたせいで清芽ちゃんに気を遣わせてしまったのかな?
そう考えると、ちょっと申し訳ないかもと私は清芽ちゃんをさりげなくフォローしてあげる事にした。
「玲奈ちゃん...私なんかのために温かい言葉を掛けてくれた事、感謝します!!」
「ちょっと!『私なんか』なんて...言っちゃダメだよ!私は清芽ちゃんの事を最初のお友達として大切に思ってるんですから!」
ミラピュアでの清芽ちゃんも、他人よりも自己評価が微妙に低かった事が原因で自分でも知らない内にストレスや不安(主に玲奈お嬢様関連)を溜め込んでしまい、それが後に爆発→【裏切り】となるルートが多かったのも事実な以上、少しは自分に自信を持ってもらいたいものだ。
「ありがとうございます!............ふふっ!ちょっと自信がない振りをするだけで優しい言葉をかけてくれるなんて、玲奈ちゃんは相変わらずのチョロさなんですよね...」
「えっ?清芽ちゃん、何か言った?」
「あっ、いえ!改めて玲奈ちゃんが私の事を最初の友人として大切にしてくれるんだな~と思うと嬉しくなりまして!」
「ふふっ!そんなの当たり前ですよ。私と清芽ちゃんは長い付き合いですからね。」
清芽ちゃんがどうやら、思っていたよりかは冷静で良かったよ。
「では、他の皆が来るまで話でもして待ちましょうか。」
「そうですね!あっ!早速なんですが先月に入学してきた菊亭派閥の橋本くんについてなんですけど、彼ったら...2年前に会った時とは面影が無さすぎて、一瞬だけ誰だ?って思っちゃったんですよね~!」
「...まぁ、その年頃は成長によって顔立ちが随分変わる子もいますからね。可愛いとばかり思ってた男の子が急にかっこよくなっていたりとか...」
「橋本伯爵家自体も2年前以来でしょうか...なぜか、派閥の集まりに出てくる機会が無くなっていたので不思議には思っていたんですけど...」
そんな感じでしばらくの間、清芽ちゃんとの何気ない会話が続いていた頃だった。
「あっ!私が三番乗りでしたね!お待たせ致しました~!大炊御門奏の参上で~す!!」
「奏、おはようございます。」
「奏ちゃん!今日はよろしくお願いします!」
3番目に到着したのは奏ちゃんだった。
それはそうと、気になる事があって...
「奏?寝癖がついてますよ?」
「ごめん!ごめん!集合場所に早く着くように急いでたからさぁ~!!」
それは私よりも先に清芽ちゃんが指摘しており、指摘された側の奏ちゃんはバツが悪そうに頭を掻いていた。
「ゴールデンウィークという休日日に玲奈ちゃんやグループの皆と遊べる事で張り切るのも無理はありませんが、身だしなみは整えておいては?」
「も~!清芽はお固いんだから!!ねぇ?玲奈様もそう思いませんか?」
そう言いながら、すがるような目で私を見つめてくる奏ちゃんには申し訳ないけど...こればかりは私も清芽ちゃんの肩を持たせてもらうよ?
普通の女の子ならまだしも、奏ちゃんはこう見えて大炊御門侯爵家という立派な貴族の家のご令嬢なんだからさぁ...
「大変申し上げにくいのですが、奏ちゃんは侯爵家のご令嬢なのですよ?清芽ちゃんの言うように身だしなみはきちんと整えておかなければ、大炊御門家の品位を疑われかねません。」
「ちぇっ...は~い、整えてきま~す...」
私の言葉を聞いた奏ちゃんは拗ねたかのように一人、商業施設へと入っていった。大方、店内のお化粧室を借りにでも行ったのだろう。
なんか、厳しい言い方になってしまったが実際に今のような現場を大炊御門家と敵対する貴族家の関係者に目撃されてしまった場合、大炊御門家への攻撃材料とされてしまう可能性もあるのだ。
たかが、寝癖程度でと思う人もいるだろうが前世でこのゲームをプレイしていた私には分かる。ミラピュアにおける貴族達の世界はそれほどまでに恐ろしいのだということを...
「奏お嬢様が申し訳ございません。岩倉様達と遊べるのだと前日から楽しみにしてまして...」
一連のやり取りを見ていた大炊御門家の従者から謝罪を受けた。本当なら、従者も従者で注意くらいはしろよ!と怒鳴りつけたいところだ。
ただ、それだと相手の従者に八つ当たりしてるみたいになって私の印象が悪くなるから言わないけど...
「まぁ、私と遊びに行けるのを楽しみにしてくれるのは友達としてありがたいんですけどね...だからといって自分から貴族としての品位を下げるような振る舞いは言語道断です。」
「はい...」
その後、寝癖を整えて戻ってきた奏ちゃんも加えて私達は他のメンバー達が集合場所に到着するのを待っていた。
・・・・・
「ねぇ?玲奈ちゃん、姫由良ちゃんは遅いですね...」
「本当ですよね...途中で何かあったんでしょうか?」
清芽ちゃんの疑問に私も同意だ。あの後...真里愛ちゃん、沙友里ちゃん、優里ちゃんの順番で集まって来たんだけど、姫由良ちゃんだけ来る気配がない。
「...それで師嗣のやつは最近、ちょっと変なんだけど~...って、あれ?姫由良がやけに遅いですね?」
「そういえば確かに...」
最近、入学してきた従兄弟の師嗣くんの話をしていた奏ちゃん達も姫由良ちゃんが中々、やって来ない事に違和感を覚えたようだ。
(仕方ない...ちょっと連絡を入れてみようかな?)
そう思った私が携帯電話で姫由良ちゃんの家に連絡を入れようとした時だった。
プルルルルッ!
「あっ、姫由良ちゃんの家からですね。」
こっちから電話をかける手間が省けてラッキーかな?
私が電話を取ると、相手は姫由良ちゃんの母親で姫由良ちゃんが体調不良で今日のお出かけに行けなくなった事を伝えると電話を一方的に切ってしまった。
(なんか、感じ悪かったけど...娘の看病で忙しいのに断りの電話をかけなくちゃならないとなれば、誰でもあんな対応しちゃうのかな?)
なんか、申し訳ない事しちゃったな...
そして、私は姫由良ちゃんが体調不良で来れなくなった事を皆に伝えた。
「姫由良ちゃんかわいそうに...」
「早くよくなるといいですね...」
「この頃、顔色悪そうだったもんね...」
皆も姫由良ちゃんの体調を心配しているようだった。
「...とはいえ、このまま私達が落ち込んでいたって姫由良ちゃんも...蛇茨ちゃんも喜びません!今日は姫由良ちゃんの分まで楽しい思い出にしましょう!」
「「「「「おーー!!」」」」」
私は姫由良ちゃんと蛇茨ちゃんを欠いた事に一抹の不安を抱えながらも、この日は皆と楽しんだのだった...




