180.全てが終わったのだ...
第180話
「というわけよ。玲奈の言う通り、私は最初から貴女の味方ではないということ。分かった?日咲...」
「あぁ...まさか、そんなことが...」
私と蛇茨ちゃんが日咲に全ての種明かしを終えると、会場中がザワつき始めた。
まるで自分の事のように怒りをあらわにする者、ヒソヒソと小声で話し始める者、気まずそうに俯く強硬派のメンバー、どこか複雑そうな眼差しで日咲を見つめる穏健派のメンバー。皆、反応はそれぞれ違うが、全員が動揺しているのは確かだ。
無論、玲奈グループメンバーとて例外ではない。
「じゃあ、あの喧嘩も演技だったんですよね⁉なのに...玲奈様!何で...何で‼私達には一言も教えてくれなかったのですか⁉...蛇茨も蛇茨よ!何で私には教えてくれなかったのよ‼...」
「なっ⁉...玲奈ちゃんは私を信頼していなかったんですか?私だって、玲奈ちゃんの役に立てたかもしれないのに...」
奏ちゃんと清芽ちゃんが私に必死に訴えかける。この二人とは学園入学以前からの仲だからこそ、自分達を頼ってくれなかった私に不満を抱くのも仕方がない。
『......許せないよ!』
誰が発したのかは分からなかったが、その声は確かにこの場にいる全員の耳に入っただろう。
その声が合図になったのか...
「何の非もない玲奈お姉様になんてことをするのかしら⁉」
「いくらなんでも、あの悪評を書いた手紙はやり過ぎだと思ってたぜ...下手をすりゃ、名誉毀損案件だろ...」
「今年の1年生はろくなのがいねぇな‼」
「貴女達はこの学園の恥よ‼転校して欲しいんだけど‼」
「とても人がする事じゃないわ!」
会場中に1年生達への怒りの声が響き渡った。教師達がなんとか皆を落ち着かせようとするが焼け石に水だ。当事者の1年生達の大半は周囲からの怒りの声と冷たい視線に耐えきれず、気まずそうに俯いているか、泣き出すかの2択だ。
それは、敦鳥ちゃん達、穏健派のメンバーも例外ではない。途中で考えを改めたとはいえ、彼女達も最初は私達を攻撃した事に変わりはないのだから...
「玲奈にあんな事しやがって‼」
「全くです。許せません。」
兼光や耀心くんまでもが怒りをあらわにした事で、完全に会場中の雰囲気が最悪に染まりきった瞬間だった。
「わっ...私もです!私や筑波様のようにこの件に関与していない人間も一部の同級生の愚かな行為を止められなかったのも事実です!」
「ちょっ⁉菱刈さん⁉」
いつの間に日咲からマイクを奪ったのか、日咲達と同じグループで、これまで黙っていた筑波百子の取り巻きの一人、菱刈奈留が日咲の抗議を無視して、半ば強引に話し始めた。まさかの人物からの発言に会場のザワつきが、たちまち落ち着く。
「なので‼私からお詫びさせて頂きます!私は悪くなくとも責められるべき人間なんです!岩倉様‼本当に申し訳ございませんでした!」
発言が終わると、会場中が再びザワつきだすが、奈留へ向けられた目線は相変わらず厳しいものだ。
「......あの子は...悪くないんじゃない?」
「そうね...よく考えたら1年生全員が伊集院日咲みたいな人間とは限らないよね...」
「あんな優しい子が取り巻きだなんて...筑波様って案外悪い子ではないのかもね。」
なるほど、百子め...これは完全に日咲を切り捨てたな...それで、あたかも自分達は関係ないけど一応、非はあるみたいな発言をさせる事で自分達の派閥の株を上げるということか...
そして、今の発言は明らかにサクラによるものだろうがおかけで百子達に向けられた視線は多少はマシになった気がする。それでも賢い子の中には相変わらず疑いの目を向ける者達もいるが...
「そんな!今までやった事は筑波様に提案されてやった事なのに!」
「いやいや!!まだ、言うの⁉無関係の筑波様を巻き込むのはやめてくれる?全部...貴女達、強硬派とかいう連中の仕業でしょ⁉」
「ううっ...」
日咲は抗議しようとするが、奈留にそう言い返されると項垂れる。実際、百子は用心の為にと第三者の前では日咲と関わった事がないし、連絡先すら交換していないのだ。そのため、どれだけ喚いても確実な証拠がない以上は日咲にはもはや打つ手がないのだ。
「じっ...実は‼私も伊集院さんに脅されて無理矢理...」
「私も!本当はこんな事したくなかったんです!」
「あっ...あんた達まで⁉どういうつもりよ⁉」
ありゃ...ついに強硬派からも出ちゃったか...自分達の罪を全て強硬派のリーダーである日咲に押しつけようとする愚か者達が...全く救いようのない人間達ばかりだ。
「ふざけないでよ‼だいたい、あんたってさぁ...勝手にリーダーぶって鬱陶しかったのよ!」
「悪いのは日咲ちゃんだよ!私達は関係ないもんね!」
「伊集院さん...悪いけど、罪を償ってくれないかな?」
まぁ、彼女達が何を言おうと私が彼女達に与える罰は変わらないのだが...
「あああぁぁぁっ‼......ううっ‼...」
筑波百子や強硬派の仲間達からも見捨てられた事で、ついに日咲は完全に負けを悟ったのか床に崩れ落ちて、すすり泣いている。
その時だ。誰かがステージに上がる音が響いた。
「...日咲...」
「へっ⁉今更、何よ...敦鳥...」
...それは、日咲の親友だった敦鳥ちゃんだった。




