16.入学式と騒動
第16話
「...............新入生代表、二条兼光。」
兼光がそう言い終わると会場のあちこちから小さい声でキャー‼とか、二条様素敵です!とか言ってるのが聞こえてくる。やはり、この世界の兼光も異性からはモテるそうだ。
入学式は何のトラブルもなく進み、兼光が新入生代表の挨拶を述べた。新入生代表には本来なら同じ公爵家でも格上の近衛や九条、一条の家の者が適任なのだが、今年の新入生にはこれらの家の跡継ぎや令嬢はいないために必然的に兼光にお声がかかる形となったのだ。
(はぁ、やっと終わるんだ...長かったな~。)
この後、学園長や在校生代表の長い話があったが貴族達は退屈そうだった。私を含め真面目に聞いていたなんては約半数ぐらいだろう。入学式って新入生は座りっぱなしでじっとしてなきゃいけない事が多く、実は結構しんどかったりする。
・・・・・
「玲奈ちゃん、奏。この後3人でどこかに遊びにいきませんか?」
「いいですね‼遊びましょう!」
「ですがどこへ...」
「それなら...」
入学式が無事に終わり私は清芽ちゃんと奏ちゃんと帰った後の予定を考えていた。
(話し込んでてすっかり遅くなっちゃったな~。)
入学式も何事もなかったし楽しい放課後になるだろう。そう思っていた...がしかし、
「あんた一般学生の癖に生意気よ‼」
『『!?』』
近くで怒鳴り声が響き渡った。何か嫌な予感がする。
「私、様子を見て来ますね。」
『『私も行きます!』』
「そうですか。では向かいましょう!」
清芽ちゃんと奏ちゃんと3人で声がした方へ向かってみると数人の女の子の集団がまた別の女の子二人を取り囲んでいた。
「なっ...なんですか⁉貴女達がぶつかってきたんじゃないですか?」
「そうよ‼生意気なのはあんた達よ!」
「はぁ?貴女さぁ、この方を誰だと思ってるの?醍醐家の家侍、奥田美留世様よ‼」
(奥田家は確か地下家...という事は...)
大体分かった。地下家は一応貴族ではあるが一部の例外を除いて爵位を与えられておらず、男爵家以上の貴族からは平民とさほど変わらない者と見なされている。そのため地下家の者達はの上位の貴族達にコンプレックスを抱えているのだ。それを晴らすために今のように自分より下の平民をいじめる者も少なくない。
「生意気ね‼もう思いっきり痛めつけてやるわ!」
「えぇ‼」
なんかまずい展開になってきた。美留世と取り巻き達は実力行使に出ようとしている。このままでは一般学生の中で全ての貴族は絶対悪だという誤解が根づいてしまうかもしれない。そうなれば私の破滅の遠因になってしまうじゃん‼
「流石に止めないとね!清芽ちゃん、奏ちゃん行きましょう!」
「うん!玲奈ちゃん‼」
「もちろんです‼玲奈様!」
以前からこの二人にも地下家や一般学生は差別すべきではないという事をしっかり教えていたのだ。二人はすぐに理解してくれた。分かってくれて本当に嬉しいぞ!清芽ちゃん‼奏ちゃん‼
私は美留世とその取り巻き達の方に向かうと、
「こんな由緒ある学園の中庭で何をなさってるのですか⁉」
と今まさに二人を殴ろうとした美留世の腕を掴んで止めに入った。
すると美留世とその取り巻き達は私達の事を睨み付けてきて、
「気安く触らないでちょうだい‼規律を乱した一般学生を教育するのは当然でしょう!」
「ていうか、貴女達はこの方が誰だと思ってるのかしら?」
「この方に逆らおうと言うの?」
などと偉そうに言い放っていた。
(やれやれ...自分達の立場を分かっているのかな?)
どうやら彼女達は私達の事を同格かそれ以下だと勘違いしてるらしい。普通上位の貴族なら式が終わったらさっさと帰ってるだろうから勘違いするのも無理はない。
「じゃあ、こちらから名乗るわ。大炊御門奏よ。」
「菊亭清芽です。」
「なっ...」
「えっ⁉嘘⁉」
美留世達は驚いている。同格以下だと勘違いしていた相手が六侯家のご令嬢だったからだ。
だが、驚くのはまだ早い。
「じゃあ、貴女は...」
おっと、私の番だ。いよいよ名乗らせて貰わないと...
「初めまして、岩倉玲奈です。」
その時の美留世達の驚愕した顔は忘れられない。




