176.最高で最低な謀略の回想 ①
玲奈と蛇茨の間に何があったのか?その回想がこちら。
第176話
時は遡って、玲奈が姫由良の家に行くよりも敦鳥との会合を選んだあの日の事だ...
『はっ⁉私に玲奈と喧嘩する演技をしろ⁉しかも、スパイになれって⁉』
『えぇ、お願いします。喧嘩の原因は今日、姫由良ちゃんの家に寄らなかった事で彼女を傷つけたから。これでどうでしょうか?』
その日の夜遅くに電話をかけてくるなり、唐突にそんな事を言われた蛇茨は困惑していた。演技とはいえ、誰が好き好んで玲奈と喧嘩なんてしなければいけないのだろうか?おまけに1年生側のスパイになれだって⁉
『無理に決まってるじゃん。そもそも、姫由良の件はそこまで責めるつもりはないってさっきも言ったよね?玲奈だって深刻な状況なのは分かってるからさ...』
『それでもです。この役目は蛇茨ちゃんにしかできません!』
『どういうことよ⁉』
何で、その役に自分が選ばれたかも分からない蛇茨が玲奈に問いかけると、
『偽りとはいえ、私と喧嘩して一時的にグループから離脱するという根性、ならびにスパイとして、1年生達と接する演技力...他のメンバーにあると思いますか?』
『あぁ...』
その答えに蛇茨も薄々、察した。
まず、陽菜や清芽は演技力も高く度胸もあるため、スパイとしては立ち回れるかもしれないが、玲奈と喧嘩して仲間割れなんて絶対にやりたがらないに決まってし、そんな事を本人に伝えたら、暴走して何をされるか分からない。いや...そもそも、陽菜に関しては1年生達に嫌われているのだからスパイは無理か...
次に奏、真里愛、莱們、奈乃波は蛇茨目線だとはっきり言って、脳筋タイプなので演技なんて無理だ。
そして、姫由良や優里なんて論外だ。元々、大人しく気が弱いうえに1年生達の策略でただでさえ、心にダメージを与えられたのだから...ここでこんな役目を与えるのはあんまりだろう。
で...滓閔と萌留は両方とも出来なさそう...というか、今回の策はおろかスパイの意味すら理解できるかも怪しい。
(はぁ...今回の件の影の当事者ともいえる、憩美にやらせるのもかわいそうだからね...)
となると残りはいまだ実力が未知数の沙友里と根性がある蛇茨だけになるわけだが...
『それなら、沙友里でも良かったんじゃない?』
『えぇ...確かに私も最初はこの役目を沙友里ちゃんに頼もうとしたのですが、よく考えると私と沙友里ちゃんだと喧嘩する理由がないことに気づきました。』
『それは私もでしょ?』
『さっきも言った通り、幼馴染みの姫由良ちゃんをぞんざいに扱われたならば、喧嘩の原因に充分なり得ます。それに蛇茨ちゃんは他の子達よりも一歩引いて、私と接している事は学園中に知られていますので...私と蛇茨ちゃんが喧嘩するとなると違和感がないんです。』
その後も話し合いは続いたが、結局は蛇茨が折れる形で玲奈のお願いを聞き入れる事になった。
『ただ、2つだけ忘れないで。』
『なんでしょうか?』
『まず、1つはこの埋め合わせとして、この件が解決したら私と二人でお出掛けする事。まぁ、...いやならいいけど...そして、もう1つは...私が貴女の味方である事に変わりないって事。いいね?』
『えぇ、もちろんですよ。では、明日から...よろしくお願いしますね。』
『はぁ...ホントは乗り気じゃないんだけどね...』
こうして、岩倉玲奈と大坪蛇茨による謀略作戦が幕を開けたのだった...
二人の回想はまだ続きます。




