168.最後通蝶
第168話
いよいよグループディスカッションの発表会が数日後に迫ったある日の事、とある空き教室にて...
「いきなり、こんなところに連れ出してなんのつもり⁉私は暇じゃないんだけど?敦鳥⁉」
「日咲...」
長寿院敦鳥は伊集院日咲を半ば強引にこの教室に連れ出していた。
(手遅れになる前に私が日咲を止めなければなりません...なんとしてでも...)
彼女に...いや、親友に過ちを犯させないためにだ。今ならまだ引き返せる可能性が残っている。
「お願い!これ以上、岩倉先輩のことを...いや、玲奈お姉様のことを陥れようとするのはやめて!このままだと取り返しがつかなくなっちゃうよ‼」
「はぁっ⁉お姉様⁉あんなやつをお姉様呼びだなんて‼敦鳥...しばらく関わらない内にあんたは憩美様よりもあいつの方が大事になってしまったのね...」
「違う‼私は憩美様も玲奈お姉様も同じくらい尊敬してる!どっちが嫌いとか好きとかじゃないよ‼憩美様も言ってたじゃない‼玲奈お姉様を恨んでないって‼」
「だーかーら!どうせ、あの女が憩美様がそう言うように仕向けたんだって‼最初の相談の時点で恨んでないって事を言わなかったのが何よりの証拠じゃん!」
「それは...きっと、あの時の憩美様は憔悴しきってたから言いそびれたんだよ!そもそも玲奈お姉様は悪い人じゃないんだって‼」
日咲と敦鳥は時々、息を切らしながらも声を荒げて激論を交わしていた。お互いが自分の立場の方が正当だと相手に分かってもらうために...
「はぁ...あんたなんかとはもう、話にもならないわ!いいわよ‼邪魔できるものならやってみなさいよ!こっちには蛇茨先輩や筑波様だってついているんだから!あの女なんか楽勝で消していただけるんだから!はははっ‼」
「.........」
ここ最近、憩美自身や穏健派が玲奈の偉大さを1年生の各クラスに説いた結果、強硬派の人数は激減し衰退の一途をたどっている。
そんな日咲にとって、蛇茨と百子は藁にもすがる思い...いや、最後の希望なのかもしれない。...だが、それは悪手だ。
「大坪先輩はともかく、その...筑波百子様を本当に信用できるの?」
「どういう意味よ。」
「日咲と筑波様って以前までは話した事すらなかったじゃん!そんな相手を信用できるのかを聞いてるの!そもそも筑波様は自分より下の人間を道具としか思ってないような人なのに‼」
「はぁ...嫉妬⁉見苦しいわね。」
「ねぇ‼日咲!目を覚ましてよぉ‼私達、親友だったじゃん!」
「.........」
実は、敦鳥は今回の騒動をどう決着させるか、日咲や蛇茨の処遇をどうするのかを既に玲奈本人から聞かされている。その策には本当にどれほど、驚かせられた事だろう。
そして、その際に間接的に知ってしまった...もはや日咲に味方などいないという事実を...
「...ふんっ!もう、あんたと話す事なんてないから!さよならっ‼」
「日咲!」
結局、日咲は敦鳥の懇願を受け入れる事なく、捨て台詞を吐くと空き教室から出ていってしまった。
(日咲、どうしてなの?...このままだと貴女が地獄を見る事になっちゃうんだよ‼...貴女にとって最後のチャンスかもしれないなのに‼...ぐすっ...)
一人、残された敦鳥はその場に崩れ落ちて、涙を流す事しかできなかった。
...やがて、時は流れてゆき...いよいよ、それぞれの思惑と陰謀が交差するグループディスカッションの発表会当日の朝を迎えるのだった。
日咲と敦鳥って玲奈がいなければ、ずっと親友でいられるはずだったのに...




