160.留守を護る者達
普段は語られない使用人サイドのお話。
第160話
平田姫香は岩倉玲奈付きの住みこみの使用人だ。普段の彼女の日常は早朝5時から始まっている。
「昨日、夜更かししちゃってまだちょっと眠いけど頑張らないと...」
使用人として主人である玲奈よりも先に起きるのは当たり前、それから午前6時に玲奈が起きてくるまでの間に朝食を摂ったり、身だしなみを整えておく。ちなみに時間に余裕がある場合はシャワーを浴びる事もある。
午前6時30分~午前7時。
彼女の朝食の時間中に彼女の荷物の準備と車の手配を済ませておく。大抵、学園に出発するのは7時30分頃なので多少の時間が余る。この間は玲奈や陽菜の話相手になったり、使用人同士で本日の予定を共有しあったりする時間だ。
午前7時30分~午前10時30分。
玲奈を学園に送り届けて帰路につく。帰路についた後は使用人全員でこの広い屋敷を隅々まで清掃する。岩倉家の品格を保つためにも、ホコリ1つ残さないよう心がけなければいけない。
午前11時~午後14時。
一部の使用人達に一時の休憩が与えられる。その間は外出する者もいれば、住み込みの使用人達は自分達に与えられた専用の部屋でくつろぐ者もいる。また、昼食に関してはこの時間に各自で済ませておかないといけない決まりだ。
ちなみに休憩時間は交代制であり、使用人達は3グループに分けられている。一人当たり、1時間。それが終わったら、次のグループの人達が休憩に入るという形だ。それが毎回、ランダムに変わる。(どうしてもという理由があるなら別だが)
たとえば、今日の休憩時間は姫香が午後12時からで、醒喩は午前11時からだ。
そして、使用人として働きたいと希望している外部の人間の面接を行うのもこの時間帯だ。
「はぁ...平田先輩、聞いて下さいよ!毎度ながら、私の貴重な休憩時間なんてフィクサーの餌やりをしないといけないんですよ!」
「醒喩もたいへんね...」
「ハヤクシロ‼オナカスイタ!ハヤク!」
フィクサーは他の鳥と違って、人間の言葉を話す事ができ、尚且つ、理解できる事から結構、自分達に対して生意気で毒舌なところがある。なので、少々憎たらしい。
「はいはい、分かりましたよ。...全く...もし、陽菜様のペットじゃなかったら、あんな鳥...とっとと唐揚げにして食べてましたよ...」
「いや、怖いわ‼さすがにかわいそうだって!」
ちなみにフィクサーはご飯を食べ終わると満足したかのように屋敷から飛び立ってどこかへ出かけてしまう。帰ってくるのは夕方になってからだ。
毎回、どこへ行くのかと聞いてもなぜか、絶対に教えてくれない。
それどころか...
『センサクスルナ...』
と、言われてしまう。...全く、謎の多い鳥である...
午後15時~午後16時。
この時間帯は来客があれば応対、なければ屋敷内にて待機という時間だ。たまに皇族の方々までもが訪ねてくる事もあるので決して無礼がないようにしなければいけない。
例外的に玲奈専属の使用人である姫香と陽菜専属の使用人である醒喩は岩倉家の運転手の車に乗り、それぞれ玲奈と陽菜を学園まで迎えにいかなければならない。
午後16時~午後17時。
玲奈と共に屋敷に帰宅する。この時間帯は玲奈の話し相手、もしくは習い事に行く日の場合はその付き添いとしてついていかなければならない。
午後20時~午後21時。
岩倉一家の夕食は19時30分頃には終わるため、食器の片付けやテーブル拭きが終わったら、ようやく使用人達の食事の時間となる。ちなみに自宅から通っている使用人達は夕食を終えた後、全員帰宅している。
午後22時~午後23時。
玲奈の入浴の世話をする。姫香はなにげにこの時間帯を一番楽しみにしている。最近、玲奈が一人で入れると言い張っているが、姫香としてもこの役目だけは放置したくない。
詳しい理由はお察しください...
午前0時~午前1時。
玲奈が就寝するのをしっかりと見届けると自分の部屋ヘ戻る。これで使用人としての1日は終了。残った時間でしばらく、テレビや新聞をみるなりと娯楽を楽しんだ後、明日に向けて静かに眠りにつく。
...これが今の姫香の1日だが、彼女はこれをしんどいと思った事はない。...いや、厳密には玲奈が前世を思い出して変わるまではちょっとした不満タラタラだったが、今となっては玲奈への忠誠心からか、文句を言うつもりは一切ないのだ。
(さて、眠たいし...そろそろ寝ようかな...)
今日もまた、娯楽を楽しみ、眠気を催した姫香はそのまま眠りにつこうとするが、気が変わったのか、ふと何かを思い付いた表情をしてその足で玲奈の部屋に入った。
部屋ではベットに横たわった玲奈がスヤスヤと寝息をたてながら、幸せそうな顔をして眠っている。我が主ながら、本当にかわいらしくてキュンとしてしまう。
「玲奈お嬢様...明日もよろしくお願いします。...それと、貴女が変わった理由をそろそろ知りたいです...もしも、私を信頼して下さるならば...いつか打ち明けてほしいです...」
すっかり寝ている玲奈には聞こえるはずなんてないのに...なぜか、姫香は自らの胸の内をポツリと呟いてしまった。
.........呟き終えて部屋を出る際...ほんの少し、玲奈のまぶたが開いたように見えたのは気のせいだろうか?




