14.貴女と出会えた事で 1
奏視点です!
第14話
「いいか?くれぐれも岩倉家のご令嬢に失礼な真似をするんじゃないぞ。分かったな?」
「あっ、はい...もちろんです。お父様...」
今日は玲奈が初めて奏の家に遊びに来る日だ。何度か玲奈の家にお邪魔させて貰った事自体はあったが、逆にこちらの家に玲奈を招待するというのは初めてである。奏は楽しみであると同時に不安でもあったのだ。
二条家のパーティーで仲良くなれたとはいえ、相手は公爵家のお嬢様だ。もし、玲奈の機嫌を損ねるような事でもすれば奏は簡単に切り捨てられてしまうだろう。そんなのは絶対に避けたいのだ...
(やっぱり、私は玲奈様にはふさわしくないのかな...)
両親は奏が岩倉家のご令嬢と仲良くなったと知るや、それまではたいして興味を持ってなかった娘にうまく取り入ろとか時に大炊御門家のために岩倉家を利用しろだとかいろいろ口出ししてくるようになった。
姉は姉で、
「何であんたみたいな出来損ないが岩倉家のご令嬢と仲良くなれるのよ!」
とか嫌味を言ってくる。
まぁ、自分だけが言われているならまだいい。
だが...
「ふん‼あんたみたいな出来損ないと仲良くなるなんて岩倉様も人を見る目がないわね‼」
「そうそう!前に噂で聞いたけど岩倉様はこの子に似て出来損ないだそうよ。それならお似合いじゃない。」
「それもそうですわね。」
(くっ、玲奈様の事を何も知らない癖に好き放題...)
玲奈の悪口を言われた時は我慢ならなかった。奏は怒りの余りに玲奈の悪口をいった姉をひっぱたいて大喧嘩になってしまい、両親からこっぴどく叱られた。
・・・・・
「旦那様、岩倉玲奈様がご到着なさいました。」
「おぉ...そうか‼よし、すぐに玄関にご案内しろ!私達も出迎えなければ‼」
「はい。」
ついにこの日が来た。奏は緊張しながら家族と共に玄関へと向かった。
そして玄関でドキドキしながら待っているとドアが開く音がして玲奈が入ってきた。その瞬間、奏も家族も悟った。岩倉玲奈はただの令嬢ではないという事を。ただの6歳の女の子だと思ったら大間違いだ。そこには他の令嬢とは比べものにならない程のまるで自分こそが強者だと思わせるオーラを纏っている。おまけに話し方も動く仕草もすべてが一級品だ。相当作法の練習をしなければこうはならないだろう、奏は肌でそう感じた。
『『ひっ...』』
家族も聞いていた噂とは全く異なる令嬢を前にして怯えていた。先程までとはまるで別人だ。そこには六候家の人間としての誇りはどこにもなく、ただ猫に怯える鼠と変わらない小者がいるに等しかった。
「奏ちゃんのご家族の方ですね。今日はお招き頂きありがとうございます。初めまして、岩倉玲奈です。」
「こっ...これはこれは玲奈様‼至らぬ娘が世話になっております!大炊御門徳保でございます!」
「つ...妻の大炊御門沙羅です!」
「あ...姉の大炊御門筑紫です...」
少々、怯えながらも家族は玲奈と挨拶を交わす。
「ではさっそく部屋にお邪魔させて貰ってもよろしいでしょうか?」
「あっ‼もちろんでございます!茶に高級な菓子を用意しましたのでお好きなだけ...」
「お気遣いありがとうございます。」
こうして玲奈は大炊御門家当主の部屋で接待を受ける事になったのだった。
・・・・・
「奏ちゃん、このお菓子とても美味しいですね!」
「玲奈様‼お気に召してくれたのなら幸いです!」
玲奈との時間はあっという間に過ぎた。その間、玲奈はお菓子を食べながら前に奏や清芽と一緒に遊んだときのことを話していた。奏も最初こそ緊張していたが話すにつれてだんだん慣れてきたのか普通に話せるようになった。両親はただ話を聞いているだけだったが、たまに会話に入ってきてはその話の中で奏にも意外な一面もあるんだなと興味深そうにしていた。両親とこんなに楽しく話したのはいつ以来だろうか。
だが、そんな空気をぶち壊す者が現れた。先程からずっと黙っていた姉だ。
「玲奈様、何でこんな出来損ないを側に置かれるのですか?私の方が玲奈様のお役に立てますよ?」
「おっ...おい‼」
父が姉を止めようとしたが時すでに遅しだ。完全に空気が変わってしまったのがわかった。それまで笑顔だった玲奈が急に真顔になって姉を睨み付けると一言、
「私のお友達を罵倒する言葉が聞こえたんだけど‼どういう事かしら!ねぇ‼」
その時の玲奈のオーラは歯向かう者すべてを一瞬で凍りつかせるレベルであり、奏自身もゾッとしたのを覚えている。
「ひっ...ですが...」
「話を聞いてなかったの⁉私が言ったのよ!もう貴女は下がりなさい‼時間の無駄!」
「もっ...申し訳ございませんでした~~~うわあぁ~ん‼」
玲奈に怒られた姉は泣きながら部屋を飛び出していった。
「ご両親も同じ考えですか?」
「たっ...確かに今までは出来損ないだと思ってましたが玲奈様と仲良くなれた事でこの子は変わった気がします!」
「私も同感です!」
両親はというと、必死で取り繕っていた。
「ふぅ、今日はこの辺で帰らせて貰いますね。」
「はっ...はい‼今日はありがとうございました‼」
そういって帰っていく玲奈を奏と両親は見送るのだった。
玲奈が帰って数時間後...
「奏、ちょっと私の部屋に来なさい。」
「はい...」
父の部屋に呼ばれた。内容は大体は察している。
(家族に恥をかかせたとかで叱られるんだろうな~。)
そう覚悟して父の部屋に着くとなぜか母も一緒にいた。そして父が奏に声をかける。
「奏...」
「はい...」
「今まで悪かった‼許してくれ!」
「えっ⁉お父様?」
父が奏に頭を下げた。予想外の展開に奏は驚きを隠せない。すると母が説明を始めた。
「私達は貴女の事を勝手に出来損ないだと決めつけて親らしい事を全くしてあげられなかったわ。でも玲奈様の話を聞いて目が覚めたの。人には人それぞれの良さがある。奏の長所を活かそうと考えてあげられなくて本当にごめんなさい‼」
そういって母も頭を下げる。
(あれはその場しのぎの言い訳じゃなかったんだ...)
両親は心から後悔していたのだ。自分の娘にした仕打ちを。
「お父様、お母様。頭を上げて下さい!私ももう一度お二人と家族としてやり直したいのです‼」
「奏...いいのか?俺を簡単に許して。」
「奏...」
「うーん、じゃあ、一つだけ条件があります。」
「何だそれは...ってうわぁ‼」
「きゃあ‼」
二人が言い終わる前に奏は両親に抱きつく。
「しばらくこうさせて!パパ、ママ‼」
奏の行動を見た二人は顔を見合わせて微笑むのだった。
両親と和解できたのは玲奈のお陰だ。岩倉玲奈という人間に出会えなければ両親との仲は冷えきったままで寂しく孤独な思いをしていただろう。そしてそのストレスを誰かに当たる事で発散するという最低な事をしていたかもしれない。
(玲奈様‼私はこれからは永遠に貴女に忠誠を...いや、家も身もそして心も全て差し出します‼なので私を選んで下さい!)
こうして玲奈と奏の仲は深まっていった。そして奏の中で玲奈に対して新たな感情が生まれるのだった。




