146.2択とは予想以上に悩まされるもの
第146話
私の演説?でクラスメイトどころか、3年生ほぼ全てが私の味方になってくれたのは本当に心強い。これで何とか、1年生達を迎え撃つ準備が整った。
「玲奈様‼今日は三聖室には寄らないんですか?」
「ごめんなさい、今日は...ちょっと...ねっ?」
この日の放課後...普段ならば、清芽ちゃんと奏ちゃんと一緒に三聖室へと向かう時間帯なのだが、今日は違う...
「やはり...姫由良ちゃんの件ですよね?」
「はい、そうです...」
蛇茨ちゃんから、その話を聞いた時は本当に驚いた。
『姫由良さぁ...手紙の内容を見た瞬間、泣き出しちゃって...しかも...そのまま、私の制止を振り切って帰っちゃって...』
『なっ⁉』
大人しくて、優しくて、奥田美留世に絡まれた時も決して屈しない鋼のメンタルの持ち主だと思っていた姫由良ちゃんが、あの時とは違って心から傷を負っていたとは...
そんな姫由良ちゃんを心配に思った私は帰りに姫由良ちゃんの家に寄って、彼女を慰めようと考えていたのだ。
「では、玲奈様‼また明日~‼」
「玲奈ちゃん、また明日お会いしましょう。」
「ええ、清芽ちゃん、奏ちゃん...」
姫由良ちゃん...貴女は1人じゃない‼私達が味方だって事を忘れないでね...
・・・・・
「岩倉様...お時間よろしいでしょうか?」
「貴女は...よくも今の私の前に現れる事ができましたねぇ!私...貴女達に対して怒りを隠しきれないんですよ⁉」
校門を出て、迎えの車が来るのを待っていた私に声をかける少女がいた。
「その...改めて話をしたいと思ってまして...」
「はぁ⁉話し合いの余地がないと確信したからこそ、貴女達はあんな事をしたんじゃないのですか⁉ねぇ!長寿院敦鳥さん?」
私は院コンビの片割れ、長寿院敦鳥に冷たくそう言い放った。姫由良ちゃんはもちろんのこと、優里ちゃんや蛇茨ちゃんといった私のグループメンバーの中で最も家格が劣る子達を傷つけるという卑劣なマネをしといて調子の良い事だ。
もしも、今、話している場所が人目につかない場所であったのなら...敦鳥に思いっきり、鉄拳制裁を食らわせていたかもしれない。
「あの時は日咲が本当にごめんなさい!それと...違うんです!今回の手紙の件は私も本当に何も知らされてなくて...恐らく、日咲を中心とする強硬派の独断なんです!信じて下さい!」
「へぇー‼そうなんだ~‼」
渋々、『お前の言い訳を聞いてやるから感謝しろ‼』みたいな雰囲気を出している私だったが、これだけは分かる。
(この子は...嘘はついてないようね...)
さっきから目がずっと真剣だし、態度も本当に焦っている人特有のものだ。もし、これが演技だとするのなら、将来は女優になれると言っても過言ではない。
「今回の手紙の件も...一部の子は流石にやりすぎなんじゃないかって思ってまして...あっ⁉え~っと‼一応、私もその中に含まれます...」
「なるほど...」
話を聞いたところ、どうやら、私を敵視する1年生達も伊集院日咲を中心とする強硬派と、ここにいる長寿院敦鳥を中心とする穏健派で別れており、決して1枚岩ではないらしい。
そういえば、日咲が陽菜の悪口を言った一方で敦鳥はそんな事は言わず、むしろ...日咲の非礼を謝罪して来たっけ?その頃から二人の考え方の違いは大体予想できたんだよね。
「さらに詳しく話したいので、人目につかない場所で...1時間程の時間を頂いてもよろしいでしょうか⁉」
「良いです...と、言いたいのですが...」
「何か問題が?」
「それは...」
あるに決まってる!今日は6時間授業で時計は既に夕方の17時を過ぎていた。そのため、この時間帯から敦鳥と話す時間を作るとなると、今日はもう、姫由良ちゃんの家を訪ねる時間はなくなってしまう。
姫由良ちゃんの家に来なかった場合は姫由良ちゃんの傷は癒えないどころか、私が来ないことで『玲奈ちゃんは私の事...本当はそこまで大切にはしてないのかな?』なんて誤解を生んでしまう。
既に清芽ちゃんや奏ちゃんにも、姫由良ちゃんの家を訪ねる事を理由に三聖室行きを断った以上、敦鳥の提案を受け入れる事で結果的に二人を騙すみたいな事になってしまうのもタチが悪い。
かといって、誤解から生まれた1年生問題を解決に近づけるための情報とかを敦鳥から聞き出すチャンスがあるのなら、こっちの方も捨て難い。
そして、ここで仮に敦鳥の懇願を突っぱねる事があればだ。比較的、私にも配慮する姿勢をみせる穏健派すらも敵に回してしまうかもしれない。そうなるのは避けたい...
(こんなに悩ましい2択なんて初めてだよ...さて、私はどうしようかな?)
悩みに悩んだ末に私が選んだのは...




