141.決裂
玲奈の虎の尾は踏むべからず...
第141話
恐らく、今回の一件は私と憩美ちゃんの考えが微妙に食い違った事が原因だろう。だからこそ、私の事は侮辱してもらうのは全然構わない。
私自身はグループのメンバーと平等な付き合いをしていたつもりだが、憩美ちゃんに自分は他のメンバーと比べるとそこまで大切にされてないのだという誤解を与えてしまったのだ。そうなると誤解を与えた私にも多少は非があると思っているからだ。
...だけど、
「貴女達は私の妹を侮辱しましたね‼」
陽菜の事を悪く言われるのだけは許せない!
「なっ⁉ごめんなさい...少し言い過ぎてしまい...」
「えぇ!そうですよ!実の妹なんかいつでも一緒にいる時間を作れるではありませんか!」
「えっ?ちょっ‼...日咲⁉」
私が本気で怒ってると感じた敦鳥は何とか私に機嫌を治してもらおうと謝罪してきたが、日咲の方はそれでも態度を変えずに私に突っかかってきた。ある意味、怖いもの知らずと言っても過言ではない。
「そうですか...ならば、貴女達の訴えなどは聞く必要はありませんね!」
「はぁっ⁉」
「私の大切な妹の事を悪く言う人達の訴えなど聞き入れるつもりはないといったのです‼」
日咲や敦鳥は知らないだろうが、私と陽菜は血の繋がりはないし、生まれた頃からずっと一緒だったわけでもない。それでも陽菜は私を姉と認めてくれたし、私も私で陽菜を妹と認めた。その強固な絆があったからこそ、今の関係が続いているのだ。
それを赤の他人にとやかく言われる筋合いはない。
「岩倉様...本当にそれでいいんですか?」
「どういうことですか?」
さっきまで黙っていた敦鳥が口を開いた。この子は日咲と違って陽菜の事を悪く言ったわけじゃないけど...何を言い出すのか、行動が読めない...
「私達と憩美様のクラスのメンバーは宮之楯眞美さんと亀寿ユメさんを除いて皆が私達と同じ気持ちです。私達は今回はあくまでその代表として岩倉様と話しに来たんです。」
眞美ちゃん...あの時の一件で私が冷たい人間じゃないと理解してくれたのかな?そして、もう一人...亀寿ユメって子の事も調べておかないとね...
「つまり?何が言いたいのです?」
「さらにそれに加えて、1年生の他クラスの半数以上も憩美様を崇拝し、私達と同じ気持ちなんです。岩倉様はこれらを敵に回してまで私達の頼みを断られるのですか?」
要するに...断れば、憩美ちゃんを慕う子達は全員、私の敵に回ると言いたいのか...しかも私は筑波百子とその派閥の子達とも対立してるから...これを合わせると今年の1年生の大多数が私と敵対する事となる。
これは厄介な事になるぞ...
「とにかく...今日は下がってください!私が本気で怒る前に‼」
「ふん‼後悔しても知りませんよ!」
「今回は出直すとしましょう...」
私がそう言うと二人は捨て台詞を吐きながら、私を置いて空き教室から去っていったのだった。
この時、私は二人に対する怒りのあまり、普段の冷静さを欠いて話を戻す事のないまま、二人を追い返してしまった。
そのため、二人から見ると肝心の憩美ちゃんとの接し方の改善の交渉が決裂してしまったという見方を与えてしまった事には気づけなかった...
・・・・・
「全く!あんなのを憩美様が尊敬してる理由が理解できないわ‼」
「日咲、落ち着いて...」
玲奈との交渉が決裂し、追い返されてしまった日咲は強く憤慨していた。それを見かねた敦鳥が必死に宥めている。
「あのさ...いくら憩美様を大切にしてほしいからって、岩倉陽菜様を悪く言うのはどうかなって...自分の妹の悪口を言われたら誰だって怒るよ...」
「何を言ってるの⁉憩美様は言ってたじゃない!『初めて会った時から私に冷たかった』って!...もしかして、あの姉妹は憩美様を都合良く利用しているんじゃ...そうだよ!そうに違いない!」
「日咲...」
自分達が崇拝する憩美のためという紛れもない善意で行動を起こした日咲と敦鳥。彼女達が玲奈と分かり合えるのは当分は先の話になりそうだ...




