140.院コンビの直訴
第140話
私は伊集院日咲と長寿院敦鳥...略して院コンビによって、とある空き教室へ連れていかれる最中だ。教室を出ようとした際に清芽ちゃんが自分も同伴したいと言い張ったが、さすがに遠慮してもらった。
もしかすると、日咲や敦鳥のプライバシーに関わる用件である可能性もある以上、二人と私以外がその場にいるのはよくないと思ったからだ。
「ふぅ...ここなら誰も来ませんね。」
「ですね...」
この教室は使われておらず、教師も生徒もここ一帯には滅多に来ないという事を私も知っている。校舎裏と並んで内緒話をするには持ってこいの場所だ。
「それで?私に話とはなんでしょうか?」
私が二人にそう問いかけると二人は即座に言葉を返してきた。
「決まってるじゃないですか!憩美様の事ですよ!」
「...逆にそれ以外の事があるとでも?」
「はい?」
いやいや‼個人的な話で私に相談、なんて可能性だってゼロとは言えないんじゃないかなぁ?...
「憩美様から聞きましたよ!岩倉様はここ最近、同級生や2年生の先輩にベッタリで私に構ってくれないと!」
「えっ?そんなこと...」
「だったら!岩倉様は夏休みに憩美様と遊ばれたのですか⁉」
「うっ...」
まるで自分の事のように強く責めてくる日咲に対して私は返す言葉がなかった。
(実際、その通りだけどさ...)
確かに夏休みは陽菜や美冬ちゃんと嘉孝さんの同窓会を楽しんだり、真理愛ちゃんの絵のモデルになったり、兼光と宿題デートをしたりした一方で、憩美ちゃんへの時間が取れなかったという点には自覚がある。
「結局、貴女達は何が望みですか?というより、貴女達に関係あるんですか?」
「ありますとも!憩美様はクラスメイト全員を平等に友達として扱ってくれてます!だから、私や日咲...いいえ!憩美様のクラス全員が憩美様を崇拝しているんです!」
私の更なる問いに今度は敦鳥が返答した。
「...なので、私達は岩倉様に憩美様をもっと大切にしてほしいと言いに来たのです。私はなにも他の人とは関わるなとはいいません!せめて...もう少しだけ、憩美様との時間を増やしてあげてください‼これは、憩美様のクラス全員の願いなのです!どうかお願いいたします!」
「長寿院さん...」
そう言って私に頭を下げる敦鳥を見て、私は内心、憩美のクラス掌握がこうも簡単に上手くいった事に驚いていた。予想以上に憩美ちゃんは私から学んだ事を生かしており、同時に人を惹き付けるカリスマ性も持ち合わせていたらしい。
そして、憩美の為にここまで尽くしてくれる日咲と敦鳥の事もとても良い子だと感心していた。普通、いくら友達といえど他人のためだけに圧倒的格上の私を相手に声を荒らげるなんて自殺行為ともいえるからだ。
だが、そんな私の評価は日咲の次の言葉で粉々に崩される事になった。
「というか!正直、岩倉陽菜先輩との時間を減らして憩美様との時間にあててくれませんかぁ?あの人は妹なんだから、もう少し譲歩すべきだと思いません⁉」
...はぁっ⁉日咲は何を言ってるんだ⁉
「それに~‼あの人は憩美様を快く思ってないそうじゃないですか‼ひょっとして岩倉陽菜先輩は憩美様を何らかの理由で陥れたんじゃ⁉それだと辻褄が合いますね~‼」
「...黙りなさい...」
「はいっ?なんですか~?」
「黙れと言ったんだけど⁉聞こえなかったのかしら⁉」
「「......‼」」
突然の私の豹変ぶりにさっきまでベラベラと喋っていた日咲は黙り込んだ。口を開いていなかった敦鳥の方も驚きを隠せない様子でただ、唖然とするばかりだ。
1つ、これだけは言わせてほしい。
お前達にいったい陽菜の何が分かるんだよ!




