137.甘えモードMAX
第137話
「玲奈ちゃ~ん‼私の可愛い玲奈ちゃ~ん‼」
「きゃっ‼奈乃波さんったら...」
とある日の放課後の三聖室にて私は奈乃波さんに抱き締められていた。多少は周囲の視線が痛いが、実は三聖室にて奈乃波さんと会うたびに抱き締められているので皆もその光景には慣れてきたのか、特に誰も声をかけてこようとはしない。
「全く‼仮にも上級生...しかも伯爵令嬢ともあろう方がみっともな...」
「うるさいわね‼筑波百子‼あんたには分からないかもしれないけどね‼玲奈ちゃんは‼私にとって玲奈ちゃんは特別な存在なの!部外者がいちいち口出ししないでくれる?」
「ひっ‼ごっ、ごめんなさい...」
それに万が一、口出しなどしようならば、今の百子のように一喝されてしまうのがお決まりなのだ。
そのようなリスクを犯してまでわざわざ声をかけてくる強者なんて世界広しと言えども...
「あのですね!烏丸様?玲奈ちゃんが特別な存在だという点は私も同意します。ですが、貴女の玲奈ちゃんとは何ですか?聞き捨てなりませんね‼玲奈ちゃんは烏丸先輩だけの物ではありません‼」
「清芽ちゃん...」
...私のグループの他のメンバーくらいなのだ。
「烏丸様?そろそろ私の玲奈ちゃんから離れていただけませんか?」
「はぁ⁉貴女の方が間違えてるじゃない!何が私の玲奈ちゃんよ‼」
その中でも特に清芽ちゃんは最近、奈乃波さんへのあたりが強い気がする。相手が先輩であろうと自分の考えを曲げないだなんてゲームの清芽ちゃんでは到底考えられない事だった。
「はぁ‼今度は侯爵家の令嬢ともあろう方がですか⁉全く‼何とはしたない事か...」
「ねぇ?筑波百子さんでしたっけ?...まぁ、誰でもいいや...とりあえず黙ってて貰えます?非常に目障りなんです。.........(とてつもない無言の圧)」
「ひっ‼ごっ、ごめんなさい...」
「そう怯えなくとも分かればいいんですよ、分かれば。」
それとね...百子はいちいちこの光景に口出しするのはやめた方がいいよ?どうせ、ろくに相手にもされないんだからさぁ...
「いっ、岩倉様!覚えておきなさい!次は容赦しないんだから‼」
「はいはい、覚えておきますよ。」
「ちっ...」
私も清芽ちゃんも奈乃波さんも自分が眼中にないのを悟った百子はそう捨て台詞を吐いて三聖室を飛び出していった。
(やれやれ...)
百子は去ったのはいいとして、私はいつまで奈乃波さんに抱き締められてればいいのかしら?それに清芽ちゃんも一見、止めてるように見えて、実は今度は自分が私に抱き着きたいという魂胆がバレバレなんだよね...
「清芽‼ただ、貴女とは違って私は玲奈ちゃんを守らなくちゃいけないの!姉さんができなかった分、私がね!たとえ、自分以外の全ての人間が敵に回ろうとも私は玲奈ちゃんを守る!ただ、普通に玲奈ちゃんに甘えたい貴女とはわけが違うのよ!」
奈乃波さん...私との出会いで立ち直ったように見えて実はまだ自分のお姉さんに未練があったんだね...
「そんな事知った事ですか‼私はとにかく玲奈ちゃんに甘えられればいいんですよ!」
おいおい...清芽ちゃんねぇ、今の台詞だと自分は悪者ですって言ってるのと同じに聞こえちゃうよ...
「なんですって!...あっ‼」
清芽ちゃんのあまりの発言に思わず言い返そうとした奈乃波さんだったが、その拍子に制服のポケットから何かが落ちた。
「危ない...なくしたら大変だったわ...」
「それって...」
「姉さん...あっ...」
奈乃波さんが前に言ってたっけ...
『奈乃波さん、その髪飾りをよっぽど大切にしてるんですね。』
『えぇ、そうよ。だってこれは...
...姉さんが行方不明になる直前に私にくれた大切な物だから...』
そう言ってそのピンクの髪飾りを見つめてた時の奈乃波さんは寂しい目をしていた。
「うふふっ‼玲奈ちゃ~ん‼」
「きゃっ‼清芽ちゃん⁉」
あれっ?いつの間にか、私を抱き締めていたはずの奈乃波さんが離れて、今度は清芽ちゃんに交代してるのだが⁉
「私だってもうお姉さんだからね...時には我慢する事だって必要なのを思い出したわ。だから...たまには後輩に譲ってあげるわよ。」
「奈乃波さん...」
改めて姉の形見ともいえる髪飾りを見た事でどこか心境の変化があったのか、あれほどヒートアップしていた奈乃波さんが落ち着きを取り戻したみたいだった。
その一方で、
「私の~‼私の玲奈ちゃ~ん‼」
「もぅ‼清芽ちゃんったら...」
こちらは相変わらず、甘えモードMAXのようで...




