136.憩美のクラスは仲良しクラス
憩美目線のお話です。
第136話
新学期が始まって少したった頃、
(夏休みの間、一度も玲奈さんに会えなかった...あぁ‼玲奈さん...玲奈さんに甘えたい‼なのに...)
一人の少女...島津憩美は必死に玲奈に甘えたいという己の理性を抑えようとしていた。
学園に入学する前までは玲奈の事は尊敬する先輩ぐらいの認識だったかもしれないが、大炊御門先輩と密談したあの日を機に憩美は完全に吹っ切れた。岩倉玲奈という人物に対する本当の好意というものを自覚してしまったのだ。
夏休みになってからは結局、玲奈と1日たりとも会う時間がなかった。同じ下級生のメンバーでも陽菜さんとその同級生の先輩方は玲奈さんと会う機会があったというのに...
(はぁ...)
嫉妬と同時にだ...もしかすると玲奈さんにとって、自分は思ってるほど優先順位が低いから誘いの声をかけられなかったんじゃないかと思うとちょっと悲しくなってしまうのだ。
「島津さん、どうしたの~?何かあった?」
「憩美さん‼もしかして、どこか体調が悪いんですか?」
「いや、何でもないわ。だから心配しないで...」
そんな憩美の様子を見たクラスメートの皆は心配して次々と声をかけてきてくれた。
最初は、憩美を公爵令嬢だからと恐れていたクラスメート達だったが、平民である眞美に対する憩美の接し方を見て段々と憩美の印象が変わってきたらしく、続々と積極的に声をかけてきてくれるようになった。
そして今ではクラスメート全員が貴族、平民関係なく憩美を慕うようになったのだ。
「もぅ‼憩美ったら!あんまり無理しちゃダメだよ‼私は何があっても憩美の味方なんだからね!」
「眞美...」
その中でも憩美が一番頼りにしてるのはやはり、宮ノ楯眞美だろう。初めてのお友達だし、なにせ、この子だけは最初から憩美の事を公爵令嬢という肩書きではなく、一人の仲間として認識してくれたのだから...
「私もだよ‼」
「僕も島津さんの味方になる!」
「私だって‼貴女の味方だよ!」
「わっ...私もです!」
「うぅっ...皆...」
こんな優しい子達に囲まれて自分はなんて幸せ者なんだろう。そう思うと嬉しさと同時に目から滴が溢れてきた。
「島津さん⁉やっぱりどこか...」
「私、先生呼んでくるね!」
「いや、それは僕が...」
「皆、落ち着いて...ごめんね...そうじゃないのよ...」
どんなに辛い事があったとしても、心の底から信頼する相手以外には弱みを見せてはいけないと春休みに玲奈さんにあれほど教えられたのに...どうしても涙を堪えきれなかった。
(玲奈さん...私、ダメな子で...弱い子で本当にごめんなさい...言いつけ1つ守れなくてごめんなさい...)
本当に自分の心が弱かったからなのか、それとも気づかないうちにクラスメート全員を心から信頼できる相手と見なしてしまったのか、その答えは憩美本人にも分からなかった。
だけど...
「...あのね、少し長くなるけど聞いてほしいの...」
「「「なぁに?」」」
「実は...」
少なくとも信頼できない相手ではないというのは確かだ。だから、思いきって相談してみようと憩美は決意した。
こうして、憩美とクラスメート達の仲はまた少し深くなった...
...のだが、この相談がきっかけで後に玲奈の身に思わぬ展開が巻き起こってしまう事を憩美はまだ知らない。




