132.騙し騙し生きるのも正義
第132話
あぁ、楽しい夏休みが今日で終わってしまう...あんなに長い休みが取れると思ったのにあっという間だったよねぇ...
「全くだな...よし!俺達でもう少し夏休みを長くしてもらえるよう学園側と交渉してみようぜ‼」
「いや、そこまでしなくとも...というか、何でしれっと二条様が私の家にいるんでしようかねー?」
この日、なぜかアポも無しに兼光が岩倉家を訪ねてきたのだが何とその理由はというと、
「単に玲奈に会いたくなったからだ!まぁ、連絡もしないでいきなり訪ねてきたのは謝る‼」
「二条様ったら...」
今の兼光なら別に害はないからいいんだけど、こっちもお客さまに色々と気を遣わないといけなくなるしさ...
「あっ、ところで...玲奈。」
「はい?どうかしましたか?」
さっきまで意気揚々と喋っていた筈の兼光が急に声のトーンを落とし、チラチラと私を見てきたのだ。おまけに少し顔が赤い気もする。いったいどうしたというんだ?
「玲奈も...家ではそういう格好するんだな...」
「えっ?......あぁっ‼」
そうだった!8月になったここ最近、あまりの暑さが続いた事もあり、私は家にいる時はかなりだらしない服装をするようになっていた。
ちなみに今も白のタンクトップに水色の短パンという格好でベッドに寝そべっており、とてもお嬢様とは思えない。普段、学園の皆、特に私のファンの子が見ている憧れの玲奈お嬢様としての面影は今はどこにもない。
「ううっ‼...それはですねぇ‼どこかの誰かさんが家に来るのがいきなりすぎたので着替える暇がなかったんですよぉ!」
「はははっ!そう怒るなって‼今の玲奈だってのびのびしてて可愛いじゃねぇか‼俺が保証してやる!」
「なっ!むぅ...」
兼光ってたまに女の子がキュンとなってしまうような事を言うから腹立つんだよね~。私がもし前世を知らないままだったら今ので堕ちてたよ...
「そうやって顔を赤くして照れてる玲奈も可愛いぞ。」
「もぅ!からかわないで下さい!」
私が兼光とそんなやり取りをしていると、
プルルルル‼
「ん?」
「あっ‼私の携帯からですね。」
突然、誰かから電話がかかってきた。発信者の名は...
『有明滓閔』
(やれやれ...面倒事になりそうな相手だね~。いっそ着信拒否できないかな?...なーんてね。)
滓閔は携帯は持ってないはずなので恐らく家からかけてるのだろう。となると、外でトラブルになったわけじゃなさそうだ。
「はい、もしもし?」
「玲奈様~‼玲奈様~‼お助けを~‼うわあぁぁぁ~ん!」
「滓閔ちゃん⁉」
電話先の滓閔は大号泣しながら私にすがっている。
「いったい何があったのですか?」
「宿題が全然終わりませ~ん‼今、萌留ちゃんと美冬ちゃんも手伝ってくれてるんですけど!間に合いそうにないんですぅ~‼」
「はぁ...」
ふぅ、滓閔の身に危害が迫ったとかいう問題じゃなくて本当に良かったよ...
「分かりました。今、私が...いや、それともう1人助っ人を連れてきますね。」
「ありがとうございますぅ~‼」
あ~あ...夏休み最後の日ぐらい、ゆったりと過ごそうと思ったのになぁ...神様は意地悪だ。
「二条様!これから二人で一緒に出かけませんか?」
「なっ‼玲奈と二人っきりでだと⁉これは...これは俺達の初デートという認識でいいのか?」
「まぁ、一応...そういう事になりますね。」
「よっしゃー‼やったぜ!」
喜んでるところ申し訳ないけど兼光はこの後、後輩の宿題を手伝う事になるなど夢にも思ってないだろう。
(さっき、からかわれた仕返しですよーだ‼)
兼光君よ。人間誰しも時には嘘をつく事だって必要という事を思い知るがいい。
 




