11.兼光の過去 その2
今回で兼光の回想は終わりです。
第11話
(ちっ...急げよ!俺!)
この日、兼光はとある凶報を聞いて高野家へ向かっていた。それは何と高野家の屋敷が火事になったという知らせだった...それを聞いた兼光は従者も付けずに一人、家を飛び出して高野家へと走っていったのだ。
(神さま!頼む‼藍葉...無事でいてくれ‼)
藍葉とその両親の安否などは現時点では全く分からない。とにかく藍葉が無事でいてくれることを祈る事しかできなかった。
・・・・・
兼光が高野家へたどり着いた頃には近隣からの通報によって駆けつけていた消防隊によって既に火は消えていたが、屋敷の惨状はあまりにも酷いものだった。たまたま近くに高野家の使用人がいたので話を聞いたところ、特に2階にある藍葉の部屋が激しく燃えていたそうだ。
「なぁ、藍葉は無事なんだよな...」
「それは...」
一番知りたい情報を聞いたが使用人は口ごもって答えようとしない。嫌な予感しかしなかったが兼光は聞くのをやめなかった。
「答えろよ‼」
兼光が語気を強めると、
「おっ...お嬢様は...お嬢様は...連絡がとれてません‼ただ、焼け跡から身元不明の遺体が見つかって...」
最悪の結末だ。当たってほしくなかったのに。
「嘘だろ...嘘だよな...何とか言えよ‼」
「落ち着いて下さい!二条様‼私が貴方に嘘などいえません‼うっ...お嬢様...」
現実を受け入れられない兼光は高野家の使用人の首根っこを掴んで問い詰める。そんな使用人も必死で涙をこらえていた。
「藍葉ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ‼」
兼光はただただ泣き叫ぶことしかできなかった。
・・・・・
その後、火災の原因が明らかになった。何と火事の原因は事故ではなく、第三者による放火だった。犯人は六候家の一角である徳大寺家の(とくだいじけ)手の者だった。後で知ったが徳大寺家の当主は傲慢であり、侯爵家である自分の娘を差し置いて子爵である高野家の令嬢が兼光の許嫁になったのを快く思っておらず、たびたび許嫁を辞退するよう高野家に圧力をかけていたらしい。
しかし、それでも効き目がなかったため、ついに実力行使に出たそうだ。そして、実行犯に家族の面倒をみてやるからこの事はお前一人がやった事にしろと徳大寺系列の弁護士に脅迫させてたらしい。
一方で、実行犯は約束は絶対に守られないだろう...自分はトカゲの尻尾切り当然と感じたのか、徳大寺家当主の指示があった事を自白したのだ。その結果、徳大寺家の当主は逮捕されて刑務所行きになった。
この事件で貴族達全体のイメージが悪化し、侯爵家当主の凶行に事態を重くみた政府は徳大寺家の爵位を男爵まで下げる決定を下した。
さらに徳大寺家は今回の件で高野家への莫大な慰謝料の支払わなければならなくなった他、悪評が広まって多くの門流の家に離脱されてしまい、結果的に総資産の8割を失う羽目になり会社の経営も大きく傾いてしまった。そのため、いまや名ばかりの貴族である状態だという。
それを聞いても兼光の心は晴れない。犯人が分かってもが失った命は二度と戻って来ないからだ。現に生き残った藍葉の父は愛娘を失ったショックから爵位を返上し行方知らずとなった。一つの火事で高野家という家は滅んだも同然だ。
兼光はその後、傷が癒えてないにもかかわらず父から新たな婚約候補者を選ぶよう言われた。父の行動は新しい女が見つかれば兼光の傷も癒えるだろうという親心である事は分かっていた。さらに礼儀作法も完璧になり、性格も穏やかになった兼光に再び取り入ろうとする者も増えていたのだ。だが、やはり兼光はもう藍葉以外の女には興味を持てなくなっていた。
そして半年が過ぎた。この日は二条家主催のパーティーが開かれたのだが、偶然にも兼光は見てしまったのだ。あの日と同じように木に引っかかったハンカチを必死にとろうとする藍葉の面影を感じた令嬢の姿を...
・・・・・
「その令嬢というのが私なのですか?」
「あぁ...」
長かった兼光の思い出話が終わった。話の内容は一応知ってたものが多かったが私には3つほど不可解な点があった。
1つ目は幼馴染みの死因だ。ゲームでは病死だったがこの世界では焼死に変わっているという点。
2つ目は幼馴染みが持ってた写真に映る人物だ。幼馴染みの家族ではないとするなら...いったい、誰なのだろう?そもそもゲームでは写真の話など一切言及されなかったのに...
そして3つ目は...
(幼馴染みって藍葉って名前だっけ?)
ゲームでは序盤のイベントで聞いた話だったので記憶が曖昧だったのだが藍葉という名前ではなかった気がする。まぁ、それに関しては私の記憶違いの可能性も充分あるが。
「岩倉さん。頼みがあります!」
「はっ...はい!何でしょうか?」
急に口調が変わった兼光に少しビックリしてしまった。
「私の婚約者になっていただけないでしょうか⁉」
「あっ⁉」
大体こういう展開になることを察していたが、今すぐこの場でいうだろうか?というか婚約候補者じゃなくて婚約者って...ヒロインですら婚約候補者にすら、すぐには選ばなかったくせに。何より破滅フラグを回避するのが私の目的だ。だから私の答えは既に決まっていた。
「大変、ありがたいお話ですが、私はお断りさせてもらいます。」
...伏線です笑