124.梅雨の玲奈争奪戦
第124話
運動会が中止になった事でみんなが複雑な思いを抱きながら5月が終わり、梅雨の時期が訪れた。
「えっ⁉玲奈ちゃん、今日はお迎えが来ないんですか?それも今日に限って⁉」
「はい...」
私はその日の放課後、三聖室にてグループの皆といろいろと話していた。
「こんな時にどうかしてますよ!今からでもその運転手を呼び出しては⁉」
「いやいや...奏ちゃん、運転手のせっかくの休暇を台無しにしてはいけませんよ。」
今日、岩倉家で雇っていた運転手に休暇を与えていたのだが...タイミングがあまりにも悪すぎた。
「う~ん、でも...雨の勢いはどんどん強くなってますよ...」
憩美ちゃんが言うように外を見てみれば、梅雨の中でも特に土砂降りの大雨が降っており、見るからに天候は大荒れだった。
朝に見た天気予報では午後からは雨が降るが、精々小雨がパラパラと降るぐらいで大雨が降る確率は10%程度だと言われていたのに...天気予報もあてにならないものだ。
「皆さん、気遣ってくれてありがとうございます。一応、傘は持ってるので大丈夫ですよ。心配しないで下さい。」
この状況で傘を忘れたなんて大ポカがあればゲームセットだが私はそんなまぬけな事はしない...しないはずだった...
「あれっ⁉ない...ない‼確かに折り畳み傘を鞄に入れてたはずなのに!」
鞄に入れていた筈の折り畳み傘がなくなっていたのだ。朝、登校する際に今日は迎えが来ないから傘は絶対に忘れないようにと何度も確認したはずなのに...
すると、まるで私がそう言うのを待っていたかのようなタイミングで声がかけられた。
「あっ!玲奈ちゃん‼もしかして傘を忘れたんですか?なら、私と帰りましょう!私の家の車で家までお送りいたします。」
「清芽ちゃん、いいんですか?」
「もちろんですよ。玲奈ちゃんは大切なお友達なんですから!」
清芽ちゃんの申し出は非常にありがたい。わざわざ他人の家の車に乗せてもらって家まで送ってもらうのは申し訳ないと思うが大雨の中、傘をささずにびしょ濡れになるよりはましだからだ。
「なら、お言葉に甘えさせて頂きます。」
「やったー!では、私の家の車が来るまで「ちょっと待ったー‼」
私が清芽ちゃんの提案に乗りかけた時、なぜか奏ちゃんが抗議の声をあげてきた。
「その役目は私がもらうわ!玲奈様‼私の車で帰りましょう!」
「奏‼何のつもりですか?」
「玲奈様‼菊亭家の車は乗り心地が悪いと有名です!ですがその点、大炊御門家の車なら問題なしです!」
「えっ⁉そうだったんですか?」
「全くのデタラメです‼乗り心地が悪いのは大炊御門家の車の方です。」
「なんですって⁉玲奈様‼騙されないで下さい!」
そのまま2人は言い合いになってしまった。私を家まで送るなんて面倒なはずなのに何で二人はそこまでやりたがるんだろう?
「やれやれ、情けない先輩達ですね。」
「莱們ちゃん...」
この状況でも莱們ちゃんは落ち着きを見せている。どうやら彼女はまとものようだ。
「じゃあ、玲奈お姉様!間をとって私の車で送ってあげます!それなら万事解決です!」
「......」
前・言・撤・回...
・・・・・
15分後、
「だからー‼私が玲奈様を送ると言ってるでしょ⁉清芽と2人だと玲奈様が何されるか分からないし...それと!莱們は後輩なんだから先輩に譲りなさい‼」
「奏。今のお言葉をそっくりそのままお返ししますね。三条さんは公私ともに玲奈ちゃんといられる時間が私達より多いですよね⁉なので譲ってくれてもいいのでは?」
「いやいや、菊亭先輩も大炊御門先輩も玲奈お姉様と同じ学年じゃないですか‼一緒にいられる時間は先輩方の方が多いはずです!」
(はぁ、まだ終わらないのかな...)
3人の言い争いは未だに続いていた。たかが、誰が私を家まで送るかの話なのにどうしてここまで必死になるんだろう?
「あぁ‼もう埒があかないわ‼憩美!あんたが決めなさい!」
「ええっ⁉私がですか⁉」
どうやら最終的に今まで3人の言い争いをビクビクしながら見守っていた私達のグループの中では1番下の後輩、憩美ちゃんに決定権が委ねられたようだ。
「憩美!当然、私がふさわしいわよね⁉」
「島津さん、この役目は私ですよね?」
「憩美!ここは私でしょ⁉分かるよね⁉」
3人がそれぞれ憩美ちゃんを見つめてそう問いかける。特に奏ちゃんは【自分が選ばれるに決まってるじゃない!】みたいな勝ち誇った表情になってるけどよっぼど自信があるのかな?
「えっと、私は...」
果たして憩美ちゃんはどの先輩を選ぶのかな?




