115.押し掛けのお泊まり...
第115話
3年生が始まったけど今のところ私の周りで変わった出来事はない...いや、清芽ちゃんの様子がちょっと変なのが気がかりだけど私と友達でいてくれる事に変わりはないから別にいいか...
「ふぅ...ただいま帰りました。」
「あっ‼玲奈お姉ちゃん!おかえり‼」
「玲奈お嬢様、おかえりなさいませ。」
私がそんな事を考えながら送迎用の車を降り、玄関を開けると先に帰っていた陽菜が駆け寄ってくる。と、同時に屋敷にいる使用人達も私を出迎えに玄関へと集まる。ここまではいつも通りだったのだが...
「玲奈ちゃん‼おかえり!」
「えっ⁉姫由良ちゃん?」
なぜかその中に姫由良ちゃんも混ざっていたことだ。
「どうしてうちにいるのですか?」
「それは「私が姫由良お姉ちゃんを遊びに誘ったの‼」
「陽菜がですか...」
姫由良ちゃんは私達同級生メンバーの中では特に陽菜と仲が良く、陽菜と二人で遊ぶ事も少なくない。性格が似てるってのが理由の1つなんだろう。あとは姫由良ちゃんの人当たりの良さか?
「玲奈ちゃん‼それより早く陽菜ちゃんの部屋に来て‼」
「玲奈お姉ちゃんも交えてハバ抜きの続きしよー‼」
「はいはい...着替えるので少し待っててくださいね。」
特に断る理由もなかった私は着替えを済ませると陽菜の部屋にてババ抜きを楽しんだのだった。
・・・・・
「面白かった~‼もう1回やろう!」
「陽菜、そろそろおしまいにしませんか?」
「え~⁉もっとやりたいのに~‼」
ババ抜き勝負は白熱した。意外にも姫由良ちゃんは全試合にて無敗だったのだ。で、次いで陽菜は勝率が五分五分、そして私はまさかの負け越しだった。
そりゃ‼最初のうちは姫由良ちゃんの事で頭がいっぱいで集中力が抜けてたとか陽菜に手加減してあげてたとかで舐めプと見られても仕方ない部分もあったけど...あっ、一応はね‼後半はある程度1抜けも増えたんだよ‼...だから‼だから‼決して私がババ抜きに滅法弱いわけではないと思いたい...
「姫由良ちゃんってババ抜き強いんですね。」
「うん‼私はハズレを見抜くのが得意だもん!」
本当ならもう少し続けたいところだけどもうすぐ夕食の時間だし、姫由良ちゃんもそろそろ帰らないといけない時間だ。だから一旦、勝負はお預けとなった。
「じゃあ、そろそろ帰るね‼」
「えぇ、姫由良ちゃん、今日はありがとうございました。」
そうして姫由良ちゃんが帰り支度を済ませていると、
「あの...兼藤さん、お宅のお母様から貴女に電話をかわるようにと連絡がきてるのですが。」
「えっ⁉ママが?分かりました‼そっちにいきます!」
うちの電話係の一人がとった電話がどうやら姫由良ちゃん宛てだったらしい、姫由良ちゃんがすぐに電話係の元へと向かった。
「なんでわざわざうちにかけたんだろうね?姫由良お姉ちゃんの携帯にかければいいのにね。」
「陽菜、姫由良ちゃんはまだ携帯電話を持っていませんよ。私達が持ってるから他の人達も必ず持ってるというわけじゃないんですよ。」
3年生になって私は携帯電話を買ってもらった。3年生初日にてグループの子達はそれを知ると私に倣ったのか、次の日にはほとんどの子が携帯電話を買ってもらっていた。例外は姫由良ちゃんと蛇茨ちゃんだ。なにせ彼女達は一般学生なのだ。そう、すんなりと自分達の携帯を買ってもらう事はできない。毎月の通信料なども考えると決して裕福とはいえない二人の家にとって大きな負担になるだろう。
なので、姫由良ちゃんと蛇茨ちゃんに何か連絡するような時は二人の家にかけるようにしているのだ。
「陽菜、貴女はもうすっかりと岩倉公爵家の色に染まっているようですね。それは嬉しいのですが、そのせいで下位の人間の事情や気持ちが理解できなくなるなんてのは本末転倒ですからね。覚えておきなさい。」
「そうだったね...ごめんなさい。」
私の言葉にシュンとする陽菜がかわいそうに思えたがこればかりはちゃんと分からせておかないといけない。
私達のような贅沢な暮らしをしてる人間はほんの一握り、世の中には恵まれない人達だってたくさんいる。陽菜だって以前はその立場だったはずだ。だからこそ公爵令嬢という新しい地位に驕らずに他人を思いやれる人間になってほしい。間違っても金にものをいわせるような子にはさせない。
「はぁ...玲奈ちゃん‼ちょっとお願いが...」
「あっ‼姫由良ちゃん、何かあったのですか?」
母親との電話を終えた姫由良ちゃんが陽菜の部屋に戻ってきた。見た感じ、結構焦ってる様子だけど大丈夫だろうか?
「玲奈ちゃん‼どうか一晩だけ私をここに泊めてください!」
「えっ⁉姫由良ちゃん⁉ちょっと...」
「この通りです!」
どうやら姫由良ちゃんは全然大丈夫じゃなかったらしい...